〔既存日本人論との照合〕

以下では、「分子間力モデル」の応用先として、日本人の対人関係における特徴(国民性)を、ウェット対ドライの次元から説明する。

対人感覚のドライ・ウェットさのうち、特にウェットさに関しては、従来から、日本人の性格・態度の特徴を表す言葉として注目されてきた。例えば、〔芳賀綏1979〕においては、日本人像のアウトラインとして、「おだやかで、きめ細かく、『ウェットで』(強調筆者)、女性的で、内気な」といったように、その中にウェットさを含めて考えている。あるいは、〔吉井博明1997〕においては、日本人のコミュニケーションのあり方の特質について、直接対面によるコミュニケーションの重視の現れを示すものとして、「ウェット」という言葉を用いている。

そこで、「分子間力モデル」において抽出した対人関係パターンを、従来提唱されてきた、日本人の国民性を現すとされる、主要な学説と照合した結果、従来の学説で取り上げられてきた日本人の対人関係における特徴は、ほとんど「ウェットさ」を示している。したがって、日本人の対人関係は、基本的にはウェットである、と捉えることができそうことが分かった。言い換えれば、「日本人の行動様式は、(分子間力の大きい)液体分子運動により似ている」ということになる。
 
項目 研究者名 まとめ次元
恥の文化 R.Benedict 1946 反プライバシー、他律指向(他者の目を気にする)
甘え 土居健郎 1973 相互依存、集団主義(一体感)
間人主義 浜口恵俊 1980 人間指向(人間関係そのものを重視)
他律的 荒木博之 1973 他律指向
人情課長 林知己夫 1961 反プライバシー(仕事以外の私事でも面倒をみる)、人間指向
同調 石田雄 1970など 同調主義(大勢順応)、画一主義(横並び)
権威主義 西澤潤一 1986 同調主義(主流派に追随したがる)
談合 規制主義(自由競争を抑制)、同調主義(相談仲間を作る)
政府による規制 規制主義
独創性の欠如 江崎玲於奈 1980、西澤潤一 1986 前例指向
相互依存的自己 Markus,H,R,&北山忍 1991 相互依存指向
集団主義 Triandis,H,C 1988など 集団主義
年功序列 前例指向(しきたり重視)
終身雇用 定着指向(組織内定住)
農耕 定着指向(定住)、同調主義(稲刈り)、規制主義(水利)
大部屋オフィス 林周二 1984 過密指向、反プライバシー(相互監視)
外圧頼み 村松岐夫1994など 受動指向
ストック指向 片倉もとこ 1992 定着指向、前例指向(蓄積)
母性原理 河合隼雄 1976 人間指向(ふれあい)、集団主義(一体感)
直接対面 吉井博明 1997 近接指向(物理的に至近距離)、人間指向(親密さ)、反プライバシー(視線)
NOと言えない 人間指向(他者に拒否されるのをいやがる、人間関係に気をつかう)

こうして、従来バラバラに提唱されてきた日本人の対人関係についての学説の大半を、今後は、「ウェット」という一言で、包括的にまとめることができることが分かった。

確認のため、日本とアメリカと、どちらがよりドライ/ウェットかと、アンケート調査で尋ねたところ、「アメリカがよりドライ(日本がよりウェット)である」との回答があった割合が、その逆よりも、有意に多かった。
 
番号 項目内容
(仮説=ドライ)
-回答=
ドライ-
どちらで
もない
-回答=
ドライ-
項目内容
(仮説=ウェット)
-Z得点- 有意
(アメリカ的-日本的)
C32 アメリカ的である 58.000 21.000 21.000 考え方が日本的である 4.163 0.01

こうした、従来、日本的とされる対人関係の上での特徴は、決して、日本だけに特殊なものではなく、より一般的には、農耕、とくに高温多湿な東アジアに広く分布する稲作社会(集約的農業型社会)での対人関係上の特徴へと拡張して捉えることができそうに思われる。この点の根拠については、環境のドライ・ウェットさとの照合についての記述を参考にしていただきたい。

現状では、研究者の関心が、日本対欧米という視点にしばられて、日本以外の東アジアの社会のあり方に対して向いていないため、日本の対人関係上の特徴を、(本当は東アジア稲作社会に共通であるのに)日本に特殊的と思い込みやすいのではあるまいか?



(C)1998-9   大塚 いわお