ドライな態度とは、総括して言えば、周囲の他者との間に分子間力のような力を相互に働かせることがなく、気体分子の運動パターンのように振る舞おうとする態度である。
ドライな社会とは、人と人との間に分子間力のような力があまり働いていない社会、あるいは、人々が気体分子に似た行動パターンを示す社会、と言える。
分子間力という言葉で、人間同士が(心理的・物理的に)引き合い牽制し合う力を便宜的に説明するとする。
以下の文章で、[有意となった項目]として箇条書きされているものは、アンケート調査の結果、有意にドライであると回答者によって判定された項目群であり、[説明]とは、なぜそれらの項目群で示される態度(ないし行動パターン)が気体分子の運動パターンに似ているといえるかを説明している。
ドライな態度(ドライな社会における構成員の行動パターン)の特徴を要約すると、以下のようになる。
(1)個人主義 自立性 広域分散性 (2)非縁故指向 (3)自由主義 (4)訴訟指向 多様性の尊重 (5)プライバシー尊重 (6)反あいまい性 (7)自律性 (8)非定着性 独創指向
これらの特徴は、互いにワンセットとなって関連しあっているおり、一つが変わると他も変わる(一つを変えようとすると他も全て連動させて変えなければならない)。
(1)個人主義 自立性 広域分散性
[有意となった項目] (個人主義) 2 互いに離れていようとする 97 互いにバラバラでいようとする 5 単独・ひとりで行動するのを好む 15 他者からの分離・独立を好む 22 集団が簡単に脱退できる 39 何か目的がないと互いに集まらない
(自立性) 4 互いに自立しているのを好む 92 独立心が強い 34 甘えを嫌う 35 派閥を作るのを嫌う
(広域分散性) 3 広い空間に分散していようとする 58 一人ずつ個室にいるのを好む
[説明]
気体分子(ないしドライな態度の人々)互いの間で分子間力が働かないので、互いに引きつけ合って集まろうとしない(バラバラでいようとする)、群れない=集団・団体は目的とかがないとできない。
分子間力が働かないということは、自分の動きを周囲の他者によって決定されるということがなく、100パーセント近くまで自分で決定できる(あるいはしなければならない)ということである。そういう意味で気体分子は、(周囲の他者から)自立(独立)している。
分子間力がないと、個人同士が互いに引き合ってくっつく=一体化するということが起きにくい。互いに一体化を嫌うことは、甘えや派閥作りを嫌うことにつながる。
集団が簡単に脱退できるとは、外に出るときに周囲の他者からの引力が働かないことを意味する。分子間力が働くと、外に出ようとする個人に対して、周囲の他者が引き止める力を及ぼすことになる。気体分子では、そうした分子間力が働かないので、集団から簡単に脱退できる。
気体分子は、液体分子に比べて、互いに低密度で広い空間に分散して存在する。
個室にいることは、壁やドアによって、他者のいる空間から隔離されることを意味する。すなわち、周囲の他者から離れて存在していることと同じであり、気体分子の性向に合っている。
(2)非縁故指向
[有意となった項目] 18 縁故(コネ)を重んじない 19 人付き合いのあり方がよそよそしい 54 短時間でさっと別れるのを好む 59 他人との触れ合いを好まない 91 人付き合いの雰囲気が家族的でない 81 親分子分関係を好まない 6 身内・外の区別にこだわらない 68 縁故のない人とも付き合う 24 他者に対して共感しにくい 42 事前に根回しがなくても気にしない
[説明]
分子間力がないと、他分子との結びつきが生まれにくい。すなわち、縁故ができにくい。分子間力が働かないと互いに引きつけ合わないため、くっつき合いにくく、触れ合いを好まず、親密さを増さないと考えられる。そのまま放っておくと短期間で相互作用(くっつき合い)を止めて別れやすいと考えられる。
親密さが進展しないので、相互作用が家族的(あたかも血縁がつながっているようにみなす)になりにくい。したがって、親分子分関係も生まれにくい。
共感しにくいことは、心理的な分布位置を相手と遠い(相手との分子間力が及ばない)ところに求めることになり、相手とくっつきにくいことにつながる。
分子間の関係は、気体ではつながり(縁故)が薄いのが普通である。縁故に頼らずにいきなり直接相手と会ったり、つながりのない相手といきなり近づいて相互作用をすることが普通(つながりが薄いのがデフォルトなので)となる。
縁故ができにくいため、身内(血縁など縁故のあるもの)と外(縁故のないもの)の区別が生まれにくい、といえる。
気体分子(ドライな人々)は、自分のもとに根回しがなくても気にしない。集団(派閥など)への所属があまり意味を持たないため 自分が集団の中に深く入り込んでいるという感覚や、周囲の他者と一緒の場の中、分子間力の働く直中にいるという意識を持つ必要がない。
(3)自由主義
[有意となった項目] 20 互いに自由に行動することを許す 21 失敗を犯した本人のみの責任とする 29 人間関係のしがらみがなく自由に身動きできる 45 抜け駆けを許す 69 行動の自由を規制されることを好まない
[説明]
気体分子は、分子間力がないので、互いに引きつけ合って束縛し合うことがない。分子同士のしがらみがない。一人だけの抜け駆けができる。自由に動ける。そういう点では、行動の自由に至上価値を置くといえる。
一人が行動を起こしても、分子間力が働いていないため周囲の他者に影響が及ばないので、行動を起こした結果(失敗)についての責任は、行動を起こした本人のみに限定される。
(4)訴訟指向 多様性の尊重
[有意となった項目] (訴訟指向) 7 対立、訴訟をいとわない 12 周囲との調和を重んじない 30 集団内部の和を重んじない 41 意見が割れても多数決でよしとする 50 相互批判を許容する
(多様性の尊重) 44 周囲から孤立してでも個性的であろうとする 66 自分とは異なる意見を持つ人に対して寛容である 99 人々の多様性を認める 62 横並びであろうとしない
[説明]
気体分子は、訴訟を起こしやすい。それは、分子同士が互いに引きつけ合う(一つにまとまり合う)ことがなく、分子相互間の進行方向の対立・離反や衝突が起きても気にしないからである。相互批判によって、互いの間に斥力を働かせようとすることが、互いに引き合う分子間力が存在しないことから、分子間力に矛盾せず、特に問題ではないとされる。
気体分子は、周囲の他者と横並びをしない。すなわち、心理的空間内における自分の位置を他者と同一にしよう(合わせよう)としない(そうすることで周囲の分子と一体化しようとしない)。周囲の他者が(自分の方へと)引っ張る力が存在しないので、他者のいる位置を省みる必要がなく、自分なりの位置決めを自由に行える。
互いに心理的空間内における分布位置を異ならせようとする分子の存在は、互いを引きつけ合って一体化させる分子間力が働かず、互いに広い空間に分散して分布しようとする指向が働く結果、望ましいこととなる(互いに分布位置をできるだけ異ならせて個性的であるのがよいとされる)。
意見が割れても多数決でよしとするということは、分子同士の関係が亀裂を生じて、仲良く一まとまりにならなくても気にしないことを示す。分子同士に互いにくっつき合う(まとまり合う)性質が少ないため、集団内部の分子同士の間に亀裂が生まれても特に修復されないということである。
多様性を認める(画一的な枠にはめようとしない)ということは、気体分子の方が、分布(物理的~心理的)のはずれ値が多いことに対応する。分布の幅が大きいとも言える。
風船に液体の水を入れて熱すると、中の水が気化して膨張する。従って、気体(ドライな分子)の方が分布の幅が大きい(広い空間に分散する、分布のはずれ値が多い)。
(5)プライバシーの尊重
[有意となった項目] 9 仕事以外には他人の面倒をみない 13 他人のプライバシーには干渉しない 64 互いに監視しあうのを好まない
[説明]
気体分子には、分子間力がない。互いに分子間力を及ぼさないことは、相手へと力を及ぼすことがなく、また相手に及ぼした力のフィードバックを取得することもない、相手の状態を見張らない(プライバシーに干渉しない)ことと同じである。
あるいは、互いに頻繁にくっつき合い接触することがないので、分子同士互いのプライバシーへの干渉(各分子が周囲に持つプライベートな空間への侵入)が起きにくい。
(6)反あいまい性
[有意となった項目] 32 物の言い方が率直である 49 物事の白黒をはっきりさせようとする 63 あいまいで融通の効く表現を好まない 65 自分の今後の進路をはっきりさせようとする
[説明]
気体分子においては、分子の動き(今後の進路を含めて)が、周囲から分子間力の干渉を受けて曲がることがないので、まっすぐ(率直)・はっきり(明快)な状態を続けることが容易である。当初明確な意図を持って動こうとしていれば、周囲の他者からの分子間力による介入・調整がないので、方向がはっきり・明確な状態をずっと続けることができる(あいまいさが生じない)。
(7)自律性
[有意となった項目] 26 周囲の他者の目を気にしない 36 自分の意見を持っている 40 行動を周囲の人に合わせようとしない 52 違ったことをしようとする(同調せず自律的であろうとする) 60 自分の今後の進路を自分一人で決められる 67 周囲の流行に振り回されない(左右されない) 93 自分が他人にどう見られるか(外観)を気にしない
[説明]
気体分子は、他者の分子間力が働きかけてこないため、自律的に振る舞うことができる。気体分子は、周囲の(自分を監視する)まなざし(周囲からの分子間力の働きかけ・糸引き)を感じることがない(恥ずかしさを感じないともいえる)。従って、周囲の意向を気にすることなく自分の進路を歩むことができる(周囲に流されなくて済む)。ないし、自分の決めた方向に周囲からの横やりが入らずにそのまま進むことができる。互いに周囲の他者とは違った(離れた)心理的位置にいるので、他者と違ったことをしても何ら不自然ではない。
分子が一定の方向に進もうと思えば、周囲から分子間力が働かないので進む方向が常に分子の決めた初期値のまま維持される。周囲の雰囲気に流されず、自分で決めた進路を通すことができる。
(8)非定着性 独創指向
[有意となった項目] (非定着性) 56 一か所に定着せずあちこち動き回る 77 遊牧生活を好む
(独創指向) 43 行動の基準を新規の独創的なアイデアに求める 80 先輩後輩関係に囚われない
[説明]
気体分子は、新たな空間への拡散性を持つ(容器などに入れてふたをあけると、すぐに四散してしまう)。分子間力によって互いに今いるところに引き止め合うことがないためであり、定着性に欠けているといえる。
遊牧生活は、牧草を求めて、広大な草原のいろいろな場所を転々とする。非定着的な生活様式であり、気体分子の動きに近い。
しきたりや前例の蓄積が重視されず、行動の基準を、新天地へ飛び出す(新境地を開く)ための独創的なアイデアへと求めることになる。それは、教育において、ベンチャー的な新しいアイデアを思いつくことに重点がおかれることにつながる。
ドライな社会では、人間関係を、各人の頭脳の中における前例の蓄積量によって区分する必要性がない(後輩の先輩への従属は起こらない)。心の中で新たに生み出される独創的なアイデアの量や質によって人間の価値が決まる。
(9)合理化・近代化との関連
[有意となった項目] 72 ものの見方が客観的である 73 考え方が合理的である 74 考え方が近代的である 82 考え方が理性的である 86 考え方が科学的である
[説明]
気体分子においては、対象との一定の距離を置く(互いに引き付け合ったり一体化したりしない)ことが前提となる、対象に対する客観視をすることが普通である(客観的なものの見方ができる)。合理的・理性的な態度(理屈に従って物事を処理する、論理的・計画的な態度)がなぜドライといえるか? 気体分子だと、各分子に自律性があるため、周囲からの分子間力による介入によって一度立てた論理や計画が曲げられることが少ないから、といえる。
ドライな社会は、社会変動において、近代化を自ら内発的に進める力を持つ。合理・科学的であり、独創性を重視することがその根底にある。自発的に近代化を達成することができる。
(10)アメリカ論との関連
[有意となった項目] 79 アメリカ的である
[説明]
従来(日本と比べて)アメリカ的とされてきたことは、訴訟を好む、個人主義など上述のドライとされる性質におおむね当てはまっている、といえる。
(11)都市・農村社会論との関連
[有意となった項目] 76 都市(都会)的な人間関係を好む
[説明]
都市住民は、互いに異質で多様な職業についている。従って、心理的空間における分布が互いに分散しているといえる。
物理的には一見過密だが、オフィスや住居ごとの丈夫で分厚い壁・持ち主当人にしか開かない鍵の存在が互いを大きく隔てる効果を持っており、実質的には分散しているといえる。
都市住民は、互いに深入りしない皮相的・匿名的な人間関係を形成するが、それはプライバシーを守るためであり、縁故が薄いといえる。
都市においては、住む人がどんどん入れ替わる。住民の定着性が低いといえる。また、縁故の蓄積がなされないと言える。
(12)従来の辞書定義との関連
[有意となった項目] 84 義理堅くない 85 人情が薄い
[説明]
辞書の定義に沿った回答となっている。
ちなみに、「ドライ」という語義の中に現れる「割り切って物事をする様子」とは、他者との間に心理的に十分な隙間が空いていて分子間力を考慮しなくてよいので、「他人がどう考えるかなどは気にしないで、一定の原則を論理的に通して結論を求める」(新明解国語辞典 第3版 三省堂 1981 「割り切る」の語義)ことができることをさすと思われる。