経済と機能


人間の行為は、犯罪など病理的なものを除き、普通は、何らかの形で環境へのよりよき適応を目指している。
この原則を、経済行為に当てはめて考える。
あらゆる経済行為の基盤・根本には、環境への適応行為が存在する(かかわっている)。
人間は、環境に適応していくために、経済行為をする。
1.生き延びるために必要な機能の生産・消費
2.機能への引き換えクーポン(貨幣)の貯蓄による、将来(の環境変動に対応した)新たな機能入手に対する備え
3.有効な機能を生み出すもの(人・組織~機械)への投資
 

●資本主義の不成立

機能交換において、双方の利益最大化は必ずしも行われない。互いに生存に十分な機能を手に入れることさえできれば(生存さえできれば)そこそこの生活レベルで満足する。当面の生存に十分な生活さえできれば、あえてそれ以上の利益は追い求めない。利潤最大(最高益)は、実生活では、必ずしも求められない。環境適応に必要な分が満たされれば、それで十分である。当面の生活に必要な分が確保できれば、それで十分な人々が大半であると考えられる。利益最大化を追求する資本主義が常に成り立つとは言えない。

また、人間の生活は、互恵・互酬から成り立っており、一方的に儲けるのは嫌われる。それが、対人関係における、(機能の入出力の)均衡のもととなる。このことも、利益をひたすら追い求める資本主義が常に成り立つとは限らないことの証拠となる。

上記の点を考えると、人々が、利潤の最大化を追い求めることを、前提として成り立っている近代経済学は、見直しを迫られるであろう。

要するに、経済行為には、利潤の最大化を目指すものと、利潤の適当化・適切化(利潤の獲得を、そこそこ満足できるレベルで止める)を目指すものがある、ということになる。

●製品と商品との区別

製品とは、機能の具体化したもの、機能を内包する物体・物質、と考えられる。医薬品など。
商品とは、製品のうち、他者が生成する機能と交換されることを前提としたもの、と捉えられる。
 

●人間が、貨幣による対価を求めるようになる理由

1)他者の環境適応の役に立つ機能を生成すると、役に立つ分、機能を消費する相手(他者)からの見返りが欲しくなるため。互いに、相手に、環境適応への貢献に見合った報酬を与え合おうとする、互酬性に基づく。
2)機能生成自体には、生成に必要な原材料を手に入れるための費用に加えて、時間と手間がかかる。その機能生成中にのしかかる、物理的~心理的負担を、機能の消費者に代弁してもらいたいと考えるため。

●利潤の必要性

利潤は、他者の機能充足(とそれに基づく環境適応)に役立った結果、他者からもらったtokenの合計 -(マイナス) 自分が機能創出のために支払ったコストの合計である。利潤は、機能生成者自身が、機能交換で必要なものを手に入れるための元手である。利潤追求は、他者の環境適応に必要な機能を、原価とかけはなれない価格で提供するならば、やって構わない。
利潤が出ないと、他者から、自分のところで不足している機能を受け取ることができず、生きていけなくなる。

●機能需給と不況

機能需給と不況との関係を考える。不況が起きる原因は、機能生成・消費の点から考えた場合、以下の理由が考えられる。

1)機能の過剰充足 機能の消費者が、機能を十二分に消費し飽きた。機能が本格的に足りなくなるまで、あるいはより高次元の機能が出るまで、あるいは、今まで供給されていなくて、消費者が潜在的に不便を感じていた機能が新たに発見されるまで、消費が起きにくい(生産しても売れない)

2)機能交換能力の喪失  他者の生成する機能を手に入れるための引換券である貨幣を使い過ぎて、他者由来の機能を手に入れたいという欲求はあるものの、持ち合わせの貨幣が足りない。したがって、機能が、貨幣と交換されて消費されることが起きにくい。あるいは、機能生成の質・量が、消費に追いつかず、その結果、受注残を抱えている。機能の生成を優先させねばならず、消費を後回しにしなければならない。したがって、機能が消費されにくい。
 

●機能水準上昇とインフレ

インフレ(物価の値上がり)は、環境適応的機能主義の立場からは、環境適応のための機能充足の水準・程度が、年々アップする(より快適に、安全に、洗練されたものとなる)ために起きると考えられる。冷蔵庫を例に取ると、冷凍物が切れる、自動製氷機能の充実など。 機能水準が上がるにつれて、その水準の製品を作るための手間が、よりかかり、それがコスト高になって跳ね返る。

野菜を例に取ると、野菜をより多く、よりよい生産地から、よりよい品質のものを供給するために、機械導入、温室の利用、石油燃料の多用、運送道路網整備など、いずれも野菜という機能付き生産物の、購入者にとっての環境適応度をupするのに不可欠である。

人々が求める機能水準が(苛酷な自然環境への露出から、よりよく守られたい、という思いから)絶えず上昇する そのための(適応水準をあげるための)コストとして機能を生産するのにかかる原価が高くなっていく。これが、物価上昇に結びつく。
 

●機能水準上昇と値下げ

普通は、ある物資の持つ機能水準が上昇すると、それにつれて、その物資の価格(他機能との交換レート)が上がる。

機能水準が向上したのに、価格が下がる現象がある。
価格当たりの機能上昇 半導体メモリの価格 容量アップしたのに価格が下がる
機能の生産コストを低下させる(コストダウン)技術水準の向上 単位時間当たり生産量の増加、生産方法の洗練
自分たちの社会の貨幣価値の上昇により、よその社会の、より単価の安い労働力を使って生産したから。

コストダウンの原因は、
(1)単純ないし枯れた技術(low technic)を使う。機能生成に特別な能力・訓練が必要ない。
(2)技術水準の向上(と、現行技術に関してのコストの相対的低下)に伴い、単純労働で、高い機能を生み出せるようになった。
(3)生産方法の簡略化(技術が生み出された初期は、複雑だったのが、洗練の過程で、単純になった)。
といったことによる。

●貨幣価値の格差

異なる社会の間での、貨幣価値の格差がなぜ生じるか?低機能(環境適応に不十分)しか生み出せない社会の通貨価値は低い。高い機能(環境適応に十分通用する)を生み出せる社会の通貨価値は高い。
 

●人口と機能供給・消費

同一の環境適応水準の社会内部では、人口が多いほど、機能供給・消費総量は増える。
高い能力を持った者と、低能者がいる。
発展途上国は、人口が多いにもかかわらず、有効な機能供給量が少ない。そのため、対価が足りず、十分な機能消費水準を保てない。
 

●企業経営と環境適応

個人同士が、より効率的に機能を提供できる様に、集団を形成したものが、企業である。
より効果的な機能生成を目指し、そのために、あらゆる手段を取ろうとする。
機能生成のためのコストを抑える。
ある程度プライバシーを犠牲にして、互いの(機能生成活動に必要な)連絡・コミュニケーションがより密に取れるようにする。

企業は、その組織維持が目標となるべきではない。
社会への有効な機能提供が第一目的である。
周囲の人々が望む種類・規模・水準の機能提供ができない企業は、消えて/消して構わない。

企業は、「金儲け(利潤追求)」それ自体が目的となっては、ならない。企業が生成する機能を必要とする人々の「人助け」が、第一目的となるべきである。

企業における顧客とは、その企業が提供する機能を必要とする人であり、人助けが必要で、困っている状態にある。企業にいる人々は、それらの顧客に、機能を提供して、「助けてあげる」ことが、その存在意義の根幹にある。
企業の人々は、顧客を助けた見返りに、顧客からの対価をもらうのであるが、その際、対価をもらうこと自体が目的となってはならない。あくまで、「顧客の助けになった、有効な力になれた」ことの証としてもらうべきである。あるいは、顧客が、得られた機能に満足して笑顔を見せたとき、初めて、顧客から対価をもらう資格ができた、と考えるべきである。「お客様の笑顔を大切にします」という経営理念の企業が、もっと増えなくてはいけない。

これを、顧客一個人から、社会へと、より視点を広げて考えた場合、社会への提供機能の(少ないコストでの)最大化・最高化を目指すのに都合がよいからこそ、組織を作って、効率的に機能生成を行おうとするのが、本来の企業のあり方である。社会への貢献度の向上を伴わない、「お客様の笑顔」を伴わない、利潤の追求は、間違っている。


●資本主義から機能主義への移行、資本主義と機能主義の両立

社会、他人がうまく行かなくても、自分さえ儲かればよいという風潮を生み出す、各個人が、他人を犠牲にして最大限に儲けることを優先する資本主義から、社会がうまく動くこと、社会病理がないこと、各個人が十分に生活、生存できること、自分を含めた社会が上手く回ることを最優先する機能主義(環境適応的、生存機能主義)へと、変わるべきである。人間は所詮他人無しでは生きられないからである。

あるいは、各人の利益追求が、そのまま社会の機能充足、保全につながるようにすべきである。個人の利益が、そのまま他者、社会の利益になることが必要である。


(c)1998-2010 大塚いわお


トップページに戻る