環境機能分析

1998-2005 大塚いわお


[要旨]

従来の社会学における「構造=機能分析」に代わって、「環境=機能分析」を提唱する。環境機能分析は、各機能が、諸個人の環境適応にいかに役立っているかを記述する。具体的には、「○○はなぜ環境適応にとって有意義か?」、ないし、「○○はどのような機能を持つか?そしてそれはなぜ環境適応的か?」といった内容を記述する。

この環境機能分析の視点を新たに取り入れることにより、人間のさまざまな行動や文化が、どのような機能(環境適応に役立つ働き)を持つかを、容易に分析できるようになる。



1.従来の社会学的機能主義における、構造=機能分析

従来のT.Parsonsによる社会学的機能主義(社会システム論)においては、

・「社会システム」とは、複数の行為者間の相互作用の体系であり、各々の行為者は、役割を担いながら相互に関係している。役割は、社会システムの重要な分析単位と考えられ、社会システムは、「役割システム」とも呼ばれている。

・「社会システム」は、均衡状態を維持する傾向を持つものと仮定されており、そのためには役割相互の関係は、安定し、制度化されていなければならない。制度化された役割の複合体を、T.Parsonsは「制度」と定義し、社会システムの「構造」の主要な要素と位置づけた。社会システムの「構造分析」とは、制度の分析に当たる。

・社会システムの不変的要素(定数)である構造として確定された制度に対して、社会システムを構成している諸変数、つまり動態的・可変的要素がどのように関係しているかを見ていこうとする。これが、T.Parsonsのいう「機能分析」である。そして、構造、特に制度とシステムの諸変数とを関係づける概念が「機能」であった。その場合、心理学的概念である人間行動の「動機付け」の側面で機能を捉える。社会システムにおける「機能」とは、構造、つまり制度化された役割の集合的パターンに個人行為者が動機づけられることを示す。

・社会システムの「機能要件」とは、社会システムの維持・存続のための必要条件のことである。社会システムが維持・存続するためには、以下の4つの機能的課題、すなわち機能要件が充足される必要がある(AGIL図式)。
 
 
項目 説明
A 適応 (Adaptation)  社会システムの目標を達成するために必要とされる用具を提供する機能。
G 目標達成(Goal gratification)  社会システムの目標を決定し、その目標の達成に向かって、システムの諸資源を動員する機能。
I 統合(Integration) 体系を構成しているさまざまな単位(例えば行為者やその役割など)の間を調整する機能。
L 潜在的パターンの維持および緊張の処理 
(Latent pattern maintenance) 
制度化された価値システムを変動させようとする圧力に対して、体系を安定的に保持しようとする機能、および、体系の中で生じるひずみを処理する機能。




2.環境適応の視点に基づく機能分析(環境-機能分析)

従来の社会学におけるT.Parsonsらの構造=機能分析は、各機能が、社会構造の維持にいかに役立っているかを記述するものである。

これに対して、筆者は、「環境=機能分析」を提唱する。環境=機能分析は、各機能が、諸個人の環境適応にいかに役立っているかを記述する。具体的には、「○○はなぜ環境適応にとって有意義か?」、ないし、「○○はどのような機能を持つか?そしてそれはなぜ環境適応的か?」といった内容を記述する。

この環境=機能分析の視点を新たに取り入れることにより、人間のさまざまな行動や文化が、どのような機能(環境適応に役立つ働き)を持つかを、容易に分析できるようになる。

例えば、盗みを犯すと重い処罰が下る刑法の存在について考える。盗みは、ある人が他者に対して有効な機能を与えつづけた対価として自分が他者から機能提供を受けるために得た貨幣などを、何の機能も全く他者に与えようとせずに一方的にやすやすと手に入れてしまうことである。これをそのまま放置すると、人々が他者の環境適応に有効な機能を生成する努力をする気持ちを失わせ、ひいては各人に機能不全をもたらす..といった副作用が生まれる。刑法は、こうした機能不全を防ぐ意味で、環境適応的である...などと分析することができる。

以上と関連して、機能ネットワーク分析ということが考えられる。

機能チャート(ネットワーク)図、 すなわち、どの機能とどの機能とが互いに関連しあうかをネットワーク状につなげて示すものを書くことにより、機能生成・交換・消費の全体像を明確にすることができるはずである。



●生体の機能分類と、産業分類への応用(生体を例に取った、環境=機能分析)

生体にとっての、環境適応していく(生きていく)上で必要な機能物質は、酸素と水と栄養、(外部環境の状態を示す)情報である。

生体の中の各臓器が持つ機能は、以下のように分類される。
 
項目 説明 具体例
1 搭載・付与 機能を内包させる、持たせる、乗せる機能。 赤血球は、機能物質である、酸素を内包する。
2 運輸・通信 機能(物質)を運ぶ、巡らす機能。 機能(が乗った物質。酸素を内包した赤血球など。)を運ぶのに必要なのは、 
1)機能の位置を動かす、エンジン・原動力(血液を動かす心臓。燃料となる酸素。情報を生み出す原動力となる神経細胞のシナプス活動)、 
2)機能が通過する通路(酸素を運ぶ赤血球が流れる血管) 
である。
3 集荷 機能(物質)を外部から集める機能。 肺では、酸素が外部環境から、集められる。 
口・胃・腸では、栄養・水分が集められる。 
脳は、外部環境から機能(物質)を取得するために必要な情報行動を起こす。
4 貯蔵 機能(物質)を貯蔵する機能。 肝臓では、集められた栄養分が、蓄えられて、保管される。
5 加工・改変 機能(物質)を加工・改変する(新機能の生成)機能。 体内の様々な酵素が、元となる機能(物質)を化学変化させて、さらに別の新たな機能を持ったものに作り替える。
6 残余物処理 機能を消費した後の残余物を処理する(外部に捨てる、リサイクルする)機能。 静脈では、不要な二酸化炭素が集められる。腎臓では、一度使った水をリサイクルする。直腸は、全て栄養分を利用し尽くした後の大便を外部に放出する。
7 防衛、保全 外部機能阻害要因(外敵、ショックなど)から生体を守る機能。 脳をショックから守る頭蓋骨、臓器を圧迫から守る肋骨、外敵の攻撃から身を守る手足など。

こうして、環境=機能分析によって、抽出・分類された結果を、社会における、産業分類に生かすことが可能である。社会においても、生成・交換・消費される、機能物質の基本は、生体同様、酸素と水と栄養、情報、である、と考えられるからである。
社会における各種産業は、たいていの場合は、上記の(生体における)機能分類のどこかに当てはまる、と考えられる。例えば、
 
項目 具体例
1 搭載・付与 半導体に、情報処理の機能を与える、コンピュータ製造業。
鉄の固まりに、食品調理の機能を与える、調理器具製造業。 
2 運輸・通信 トラック・鉄道などの運送業。
電波に情報を乗せて広域に巡らす、放送・通信業。
3 集荷 みかんを収穫する農家、農家が取ったみかんを一カ所に集めて処理する農協の集荷場。 
石油を取って集める、石油採掘業。
4 貯蔵・保管 作った製品を貯めておく、倉庫業。
預貯金を扱う、銀行業。
5 加工、改変 石油をプラスチックに変える、石油化学工業。
6 残余物処理 地方自治体のごみ処理場。
7 防衛、保全 人家や学校の安全を守る警備業。 
人体を寒さから守る衣類を製造する繊維業。
8 交換・市場 交換用トークン(貨幣)を用いて、製品と利用者を出会わせる小売業。←新たに追加

となる。実際の社会に適用するには、上記の7つに加えて、機能交換のための、「交換・市場」機能(製品と利用者を出会わせる小売業などが該当)が必要となる、と考えられる。

以上、環境=機能分析では、同じ、生体を模範にした機能分析でも、T.Parsonsらの構造=機能分析とは、全く異なる分析結果が出ている。これは、環境=機能分析では、生体全体を分析の対象とするのではなく、生体内の一つ一つの個別の細胞を、生存~環境適応の単位として捉えているからである。

また、生体・生理システムをもとに分析したといっても、基本的な機能分類のあり方に変化がないというだけで、分類された各機能の持つ環境適応に役立ちの度合いなどは、各人の絶え間ない学習~発明によって、絶え間なく新しい段階へと変動している。例えば、運輸機能(宅配便のトラック輸送など)が、GPSやインターネットの活用で、飛躍的な進歩を遂げたことなどが、その例である。



●ビデオデッキ機能の「環境=機能」分析(機能進化について)

ビデオデッキは、テレビなどの画像+音声を、カセットテープに、録画したり、テープに録画された画像+音声を再生する装置であり、家電製品の代表的な存在である。

ビデオデッキの機能を、どのように、利用者の環境適応に役立つか、という視点から分類すると、以下のようになる。
 
項目 具体例 評価基準 必要な(環境適応に役立つ)理由
1 扱える(情報)量や種類の多さ 対応するビデオテープの録画可能最長時間(3倍録画モードの有無)。地上波だけでなく、衛星放送にも対応しているかどうか。 多いほどよい 多くの情報が保存可能なほど、環境適応に必要な情報を取っておきやすい。
2 (動作の)速さ  ビデオテープを巻き戻すのにかかる時間の短さ(400倍速)。  速いほどよい 時間が節約でき、その他の、必要な環境適応行動に回すことができる。
3 (扱える情報の)きめ細かさ 録画可能な画質のきめ細かさ(S-VHS対応)。 きめ細かいほどよい 保存できる情報がきめ細かいほど、環境適応に必要な情報の詳細をつかみやすい。
4 小ささ・軽さ 対応するテープカセットの重さ、大きさ→持ち運びやすさ(8mmビデオカセット vs VHSカセット) 小さく、軽いほどよい 持ち運べる空間範囲が増えて、利用可能な用途が広がる(環境適応に役立つ場面が増える)。
5 (動作の)正確さ、エラーの少なさ テレビ放送の時報に、デッキ内蔵時計を合わせることで、時間ピッタリに録画が開始される機能 正確なほどよい 正確なほど、環境適応に必要な情報の取り逃がしが少なくて済む。
6 (操作の)簡単さ(操作手順の少なさ、操作の分かりやすさ、求める機能の探しやすさ)  番組予約を、一々チャンネル、開始時間など個別に入力しなくても、Gコード入力だけで可能にする 簡単なほどよい 操作する上で必要な心理的労力やストレスが少なくて済む(心理的労力やストレスは、少ないほど生き延びやすい)。
7 (操作手順や、扱う情報の)互換性 従来機種との操作手順の共通性。ないし、異なる仕様・フォーマット(ディジタル・ビデオカメラ用)の画像情報を、(VHSカセット上に)ダビングで記録することができる度合い。 高いほどよい。 情報の扱い方に共通性が確保できることで、操作手順の学習労力や、操作間違いの頻度を減らせる。活用できる情報の種類が増えて、より多様な情報に接することができるようになる。
8 (扱う情報の)純粋さ(の確保) コマーシャルなど、本来の番組内容に関係ない、不要な内容の情報を、自動的にカットできる機能。 多いほどよい。 本来の環境適応に必要な情報のみに、視聴上の注意を集中できるようになる。
9 (操作上の)安全さ・セキュリティ(の確保) 子供など、外部の他者による、機器に対するいたずらを防止する機能(チャイルド・ロック)。 安全なほどよい。 外部からの侵入者によって引き起こされる機能不全を防止する。


 

ビデオデッキの機能は、利用者がより生活に便利=環境適応的と考えるものへと、年々着実に洗練されてきている。これは、「機能の進化」が起きていると捉えることができる。年々、試行錯誤的にビデオデッキに付加される新機能のうち、有用なものが、生き残り、より便利なものへと、進化をとげていくのである。

機能進化は、人間の、環境適応により有効な機能を新たに開発したり、既存の機能をより適応力のあるものに改良することで、自分たちの環境に適応している度合い(環境適応水準)を向上させたい、という欲求が原動力となって起こる、と考えられる。


(c)1998-2005 大塚いわお

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