ウェット・インタフェース・デザイン


(c)2001-2002 大塚 いわお


本文は、従来まとめられた対人関係のウェットさについての知見を、コンピュータのユーザ・インタフェースに応用することを目的としている。

従来のコンピュータのインタフェース(ユーザとじかに接する部分)の使い心地は、とかくドライな印象が付きまとうものであった。すなわち、従来のコンピュータはメカニックで非人間的であり、ユーザとの間に築いた関係もリセットスイッチを押すことで全て初期化され、よそよそしい「赤の他人」として振る舞ってきた。コンピュータはまた、論理的な計算を得意とし、合理性・科学性の権化として、人間社会に君臨してきたのである。

しかし、コンピュータの持つそうした性質は、人間であるユーザがもともと根深く持つ心理的なウェットさとは相容れないものであった。それゆえコンピュータは、その振る舞いが根本的に「非人間的」である、として非難されてきたのである。

しかし、このコンピュータのインタフェースがドライ過ぎるという問題は、これまで長い間放置されてきた。従来のコンピュータの使い心地を改良する技術としてのユーザビリティ工学は、とかくコンピュータの合理的・メカニックな側面を洗練させ、無機質な道具として人間に一方的に使われる、奉仕する能力を向上させることにのみ重点を置いてきたのである。

以下においては、上に述べた問題を解決する方法論として、新たに「ウェット・インタフェース」を提案する。すなわち、コンピュータがどのように振る舞えば、ウェットな感じをユーザに与えることができるかについて、考察する。


従来、人間同士の対人関係において、ウェットな感覚を与えるには、他者と心理的に近接しようとする指向を持つこと(心理的近接指向)、および他者と近接した状態で離れて動き回ることがないことが必要である、とまとめることができる。この基本的な考え方と、コンピュータの使い心地をどうすればよくすることができるかについての原則=ユーザビリティ原則とを、内容的にリンクさせることが可能である。コンピュータにウェットな感じを与える、ウェット・ユーザ・インタフェースの基本原則は、「コンピュータがユーザに対して心理的に近づこう、くっつこうとする、離れようとしない」ことである、と捉えることができる。

コンピュータにウェットさを与えるユーザビリティ原則を導き出すに当たっては、筆者が従来の研究で明らかにした、他者にウェットな感覚を与える行動様式がどのようなものであるかのまとめの表を参照しながら、それをコンピュータのユーザに対する動作レベルへと翻訳する、という手順を踏んだ。

なお、コンピュータに移植するに当たっては、ウェットな行動様式そのものは、もともと人間同士の間では必ずしも望ましいものとは考えられていない場合がある(煩わしさや息苦しさを感じさせる弊害も多くある)ため、コンピュータの動きとしてどうすればウェットでかつ、一緒に付き合っていく上で望ましい、好ましい「キャラクタ(人格)」とすることができるかというように、「望ましさ」を前提とした原則となることを心がけた。

以下に、コンピュータにウェットさを与えるユーザビリティ上の基本原則を表の形で示す。

番号 分類名称 ウェットな対人関係のあり方 ウェット・ユーザビリティ原則
A 心理的近接
1 集団主義 互いに集まり、まとまって動こうとする ユーザと一緒に行動しようとする
2 相互依存指向 互いに依存し合う(もたれ合う) ユーザと互いに助け合いの関係に入ろうとする
3 密集指向 互いに狭い領域に密集する ユーザのすぐ近くにいようとする
4 画一指向(同質指向) 互いを画一的な枠にはめようとする ユーザと外観などを同一化しようとする
5 人間(関係)指向 他者との間に積極的に人間関係を持とうとする ユーザと積極的に仲間になろう、なつこうとする
6 縁故指向 既に結び付き(縁故)のある他者との関係を優先する ユーザと強いきずなを持とうとする
7 規制主義 互いに行動を規制し合う ユーザに対して一定の節度をわきまえている(自由奔放過ぎない)
8 他律指向 自分の意思を自分だけでは決めず、周囲に決定を任せる ユーザに対して、自分の取るべき行動の決定を任せようとする
9 同調指向 取る行動を互いに合わせようとする ユーザの後を追って同じ行動を取ろうとする
10 権威主義 自分の取る意見について(すでに認められた)主流派の後を付いて行こうとする ユーザに社会で主流になっている態度を取るように誘う
11 反プライバシー 互いのプライバシーを重んじない ユーザに関する情報(秘密など)に関心を持とうとする
12 あいまい指向 自分の取る意見がが率直・明快でない ユーザにはっきりものを言い過ぎない
13 非合理指向 物事に対して心情的に割り切ることができず、合理的でない ユーザに対して取る態度が合理性・科学性一辺倒でない(占いを信じるなど)
14 閉鎖指向 形成する集団が外部に対して閉じている ユーザ(やその仲間)以外へと関心を外すことがない
B 定着・非移動
1 静的指向 自発的に動き回ろうとしない ユーザの近くに静止してあまり動かない
2 定着指向 今いる土地や組織に定着しようとする ユーザから離れてあちこち浮気しようとしない(ユーザのもとで腰を落ち着けようとする)
3 前例指向 自分が今までいた領域にとどまろうとする ユーザの属する家庭や勤め先の前例を大切に守る


こうしたウェット・インタフェース原則は、コンピュータ上にいる仮想人格としてのエージェントや、物理的空間を自力で移動するロボットにも応用可能である。

ユーザのことを慕い、なついてくる、ウェットな態度のロボットは、ユーザに対して、従来のペット同様親しみや安らぎを与えることになり、ドライな態度のロボットと比較して、ユーザははるかに強い愛着や大事にしたい、一緒にいたい気持ちを感じるであろう。こうしたロボットの持つウェットな性質は、単に仕事ができるとか壊れにくいとかいった従来の道具や下僕としてのロボットとはまた別の「使用時の快適さ」をユーザに対して提供する。

ウェット・インタフェースは、コンピュータやロボットがユーザに対して心理的に接近し愛着を持とうとするインタフェースと捉えることが出来、その点「温かさ、心理的な温もり」をユーザに与える「温情インタフェース」とも深く関連すると言える。

また、上記原則を応用することで、従来ウェットとされてきた、日本的、ないし女性的な態度を取るコンピュータやロボットを開発することが新たに可能となると言える。

今後は、こうしたユーザビリティ原則をもとに、具体的なコンピュータやロボットのハードウェア・ソフトウェアの仕様を設計していくデザイン過程に即時に使えるウェット・インタフェース・ガイドラインを整備していく作業が必要となろう。


(c)2001.9-2002.6 大塚いわお

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