ドライ・ウェットな行動様式についての検討


(c)1999.7~2004.5  大塚いわお

[要約]
1.はじめに
2.気体・液体分子運動との関連
3.ドライ・ウェットと想定される行動様式の抽出
4.ドライ・ウェットな行動様式の詳細な説明
5.抽出した行動様式のドライ・ウェットさについての確認
6.まとめ


[要約]

本研究では、人間のどのような行動がドライ・ウェットな感覚を生むかについて、以下のような仮説を提唱した。

ごく小さな液体・気体分子から目に見えるレベルまでの物体一般の性質及び人間の行動において、共通に、

(1)ウェットと感じられるのは、接着・粘着性が強く、相手と近づこう、ベタベタくっつこうとする場合。また、運動・活動性が低く、一カ所に動かず定着・ 定住しようとする場合である。

(2)ドライと感じられるのは、運動・活動性が高く、あちこち動き回ろう、移動しようとする場合。また、接着・粘着性が低く、相手からサラリと離れてバラバラでいようとする場合である。

要約すれば、「相互離散・移動=ドライ、相互近接・定住=ウェット」ということになる。

この仮説をもとに文献調査を行い、ドライ・ウェットさの軸の上に乗っていると考えられる行動様式を、集団主義-個人主義、規制主義-自由主義など17項目 に集約して抽出・整理した。こうして抽出・整理した行動様式が本当にドライ・ウェットと感じられているかどうか、仮説に沿った質問項目を作成して、WWW を用いた質問紙調査を行った。分析した結果、提案した仮説がほぼ正しいことを確認した。

キーワード : ウェット,ドライ,行動様式

In this paper, the author describes about what human behavior gives dry - wet feeling to others.The author presented the hypothesis that objects (from molecule size to visible size) and persons in common (1) bring wet feeling to others, when they move slowly or are fixed, come near and stick to each other, (2) bring dry feeling, when they move fast or are active, go away and separate each other. When their closeness or adhesion, and settling orientations are strong, their behavior is felt wet, and when their separating or diffusing, and moving orientations are strong, their behavior is felt dry.

More detail explanations about dry - wet behavior dimensions were obtained by surveying literatures about Japan and Western cultures comparison. 17 dimensions such as individualism(dry) - collectivism(wet), liberalism(dry) - regulationism(wet), etc.. , were extracted as they would bring dry - wet feeling.

The validity of these hypothesis was proved by the query survey using WWW and 200 respondents.

Key words: wet, dry, behavior

ドライ・ウェットな物体(分子を含む)~人に共通する運動・行動パターンについて、以下の図にまとめた。



1.はじめに

1.1 人間の行動様式が与える感覚

本研究は、人間のどのような行動様式が、周囲の他者に、どのような感覚で捉えられるか、すなわち、人間の行動様式が周囲の他者に与える感覚、の発生 するメカニズムに関するものである。

人間の行動様式が、周囲の他者に、対人関係を通して与える感覚(対人感覚)には、冷たい-温かい、ドライ-ウェット、明るい-暗いなど、さまざまなものがある。
社会心理学の分野では、このうち、冷たい-温かいの対人感覚軸について、従来から、その重要性が指摘されて来た。例えば、Asch(1946)によれば、 人の性格を表す特徴の中に、ある一言が入ることによって、その人物の全体的印象が大きく変わること、具体的には、「温かい」もしくは「冷たい」という形容 詞を入れ替えただけで、その人物の最終的な全体印象に大きな違いが生れることが、指摘されている。この場合、人物の全体印象を決定づけるのに、「冷たい- 温かい」の対人感覚軸が、「中心的特性」として、大きな影響力を持っているとされている。


1.2 ドライ・ウェットな行動様式解明の必要性・メリット

しかし、今までの社会心理学では、同じ対人感覚でも、ドライ-ウェットの軸については、ほとんど注目を集めていない。すなわち、どのような行動様式が、ドライ・ウェットな感覚を、周囲の他者に対して与えるか、また、そうした感覚を与えるメカニズムがどのようなものか(ドライ・ウェットな対人感覚発生のメカ ニズム)については、従来はほとんど研究されてこなかった。

一方、従来の日本・欧米文化比較論においては、「日本文化=ウェット、欧米文化=ドライ」とする説明がしばしばなされてきた(例えば、松山幸雄 (1978)、西尾幹二(1969)など)。この印象が本当に正しいかどうかは、杉本・マオア(1982)のような「日本がドライで、欧米がウェットである」という反論もあり、別途確認が必要であるが、日本・欧米文化を比較する際に、その視点をドライ・ウェットの軸で捉えることについて、現在まで特に異論は出ていない。

今のところ、なぜ日本(欧米)文化がウェット(ドライ)と捉えられるかについての深い議論は国際的にはなされていないが、今後、世界の文化を心理的側面か ら分析していく場合には、ドライ・ウェットさの次元が重要な役割を果たす可能性が十分ある。例えば、各文化を取り巻く自然環境との関連では、「乾燥環境= 遊牧・牧畜文化(欧米など)=ドライな行動様式が主流、湿潤環境=農耕文化(日本、東アジアなど)=ウェットな行動様式が主流」という相関が成立すること で、ドライ・ウェットさの次元が、世界の文化の分類把握をより容易にする効果を持つことが予想される。

この他、ドライ・ウェットな行動様式の解明は、例えば、
・男女の心理面での性差との関わりで、男女どちらがよりドライ・ウェットな行動様式の持ち主かを調査・分析し、男女それぞれにより適した活動分野を探ること、
・官庁や企業などの組織の生産性や成員の満足度を向上させる上で、最適な組織の湿度はどの辺りにあるかを知ることで、組織に対して対人関係面での湿度調節 を提案するメンタルなコンサルティング業務ができるようにすること、
などに対して有用であると考えられる。

以下では、人間のどのような行動様式が、なぜドライ・ウェットと感じられるかについて、本来ドライ・ウェットな感覚を人間に与える気体・液体の持つ性質か ら類推する形で、説明している。


            
2.気体・液体分子運動との関連

2.1 気体・液体分子運動パターンの説明

人間のどのような行動様式が、なぜドライ・ウェットな対人感覚を生むかについて、まず、本来人間にドライ・ウェットな感覚の相違を与える、物理的な気体・ 液体の性質の相違を生み出すメカニズムを、改めて確認する必要がある。ドライな感覚を与えるのが、気体で、ウェットな感覚を与えるのが、液体である。両者 の相違を見るには、視点が、分子レベルまで小さくなる必要がある。
具体的に気体分子と液体分子の、両者の相違を生み出しているのは、
[1]運動エネルギーの大きさ(動きの度合い)の違い
液体では、動き回る度合い(運動エネルギー)が小さい(あまり動き回らない)。
気体では、動き回る度合い(運動エネルギー)が大きい(よく動き回る)。
[2]「分子間力」の働く度合いの違い
液体では、分子同士の間に、互いの距離を縮めて、互いに引き付け合い、くっつき合い、足を引っ張り合ったり、牽制し合う、「分子間力」という引力が、大き く働いている
気体では、分子同士の間に、上記の、互いに相手と近づき、引きつけ合う「分子間力」が、ほとんど働いていない
である。
 「分子間力」の働く度合いが、液体で大きく、気体で小さいのは、
(1)液体分子では、運動エネルギーが小さいため、もともと分子間に存在する、相互に引きつけ、くっつき、牽制し合う力(分子間力)を振り切って動き回る ことができず、分子間力のいいなりになっている
(2)気体分子では、動き回る度合い(運動エネルギー)が大きいため、分子間力を振り切って動き回ることができ、「分子間力」の影響から自由になっている
ためである。

 「分子間力」の働く度合いが、液体で大きく、気体で小さいのは、
(1)液体分子では、運動エネルギーが小さいため、もともと分子間に存在する、相互に近づき、引きつけ、牽制し合う力(分子間力)を振り切って動き回るこ とができず、分子間力のいいなりになっている
(2)気体分子では、動き回る度合い(運動エネルギー)が大きいため、分子間力を振り切って動き回ることができ、「分子間力」の影響から自由になっている
ためである。



2.2 物体一般への適用

液体の水は、指先で触れると、濡れて皮膚にくっつき、まとわりついて離れようとしない。その点、液体の水と指先との間には互いにくっついたままの状態で いようとする引力が働いていると言える。また、液体の水は指先を動かさない限り、いつまでも同じところに留まって動かない。その点、液体の水は、気体の水 蒸気などに比べて、運動・活動性が低いと言える。

そこで、さらに考えを拡張すると、物体一般において、
(1)物体(分子~人間)の、運動・活動・移動・流動性が高く、相互間に働く引力(結合力)が小さい(互いに離れる)場合、ドライである(乾いている)と 感じられる
(2)物体(分子~人間)の、運動・活動・移動・流動性が低く、相互間に働く引力(結合力)が大きい(互いに離れない)場合、ウェットである(湿ってい る、濡れている)と感じられる
という法則が成立する、と推定される。

この推定が正しいことを説明するには、分子よりもずっと人間に近いサイズの物体において推定が成立することが必要となる。そうしたより人間寄りのサイズの 物体としては、例えば、海岸や河川、砂漠に分布する砂の粒や、人間(特に女性)の髪の毛、大豆を発酵させて作る納豆、溶けた糖分を冷やして固めて作った菓 子のキャンディ、より大きなものとしては、卓球用のプラスチックボールや、バレーボールなどがあげられる。

乾いた(ドライな)砂は、触っても手にくっつかずサラサラと一粒ずつバラバラに離れて落ちる(接着・粘着性がない)。また、風が吹くとそれに従ってサラサ ラと移動する(流動性がある)。これに対して、湿った、濡れた(ウェットな)砂は、触ると手にくっついてそのまま離れようとしない(接着・粘着性があ る)。また、団子状にひとかたまりになって、風が吹いても動こうとしない(流動性がない)。

水に濡れた髪は、髪の毛同士がひとまとまりになってなかなかバラバラになってくれないし、風が吹いてもなびいて動こうとしない。一方、乾いた髪は、風にな びいてサラサラ・バラバラと一本ずつ個別に分離して動き、流動性がある。

納豆は、かき回すとネバネバとした糸を引いて互いに糸で接続し、くっついて一つにまとまった状態で静止しようとする。その際、一粒の豆と豆との間を引力が糸を引く形で働いており、分子間力相当の力に相当すると考えられる。

表面が溶けた(液体化した)キャンディの粒々は、指先や他のキャンディとベタベタくっついて取れない。一粒ずつ動かそうとしても、互いにくっついて動かす ことができない。

あるいは、卓球用プラスチックボールやバレーボールは、そのままでは手離れよく一つずつバラバラになって動き回るが、接着剤を表面に広く塗り付けたり、両 面粘着テープ全面に巻き付けるとベタベタ互いにくっつき、結合し合って離れず、一つずつバラバラに独立させることが難しいし、活発に動かそう、飛ばそうと してもすぐ別のところに接着してしまって動こうとしない。

この場合、こうした物体の接着・粘着性(いったんくっつくと離れようとしない性質)が、互いの間に働く引力(互いに離れずくっつき、接続し合おうとする 力)を大きくし、運動・活動・移動・流動性を奪っていると考えられる。すなわち、物体における互いにネバネバ、ベトベトと互いにくっつこうとする接着・粘 着性が、物体同士を互いに引き合わせ、動きにくくする形で、物体にウェットさをもたらすことになる。これは、例えば接着剤が長時間外部に露出し続けて溶剤 が抜けてベタベタしなくなると、乾いた、ドライになったと感じられることからも例証される。

上記の考えが正しいかどうか確認するために、web質問紙調査を、2002年4月下旬および10月上旬に実施した。調査は、対にした、物体がもたらす 感覚について説明した2つの文章のどちらがよりドライに感じられるか尋ねるもので、1質問項目当たり約200名の回答者という規模で行った。分析した結果、上記の、
(1)触るとサラサラとして手からすぐ離れる(粘り気がない)物体の方が、ベタベタくっつく(触るとネバネバしている)物体よりも、よりドライに感じられ る。ないし、互いに離れることで、間隔が開いて風通しのよい状態の物体の方が、互いにくっついて風通しの悪い状態の物体よりも、よりドライに感じられる。
(2)バラバラに自由に動き回る物体の方が、互いにくっつき合って動かない物体よりも、よりドライに感じられる。ないし、動きのある物体の方が、動かずに 停滞した状態の物体よりも、よりドライに感じられる。
ことが実際に確認された。

web 質問紙調査(確認用)結果数値へのリンクです。

以上の考えを分かりやすい言葉でまとめると、一般に、粘り気・接着力があり、互いにベタベタくっつき合って動かない物体はウェット、反対に、手からサッと 離れて、互いにサラサラと離れて動き回る物体はドライに感じられる、と言える。

この場合、ウェットな物体は、互いに他の物体とくっつき合おうとし、ドライな物体は互いに離れようとする点、両者は、物体間の相互作用、社会関係の面から見て、対照的な性格を持つと言える。

こうした、分子レベルよりもずっと大きい物体サイズの事例から、前記の分子レベルでのドライ・ウェット感の範囲を物体一般に広げることが可能だと考えられる。



2.3 対人関係への応用

この物体一般におけるドライ・ウェット感覚をさらに人間レベルまで拡張して捉えた場合、水のような液体、空気のような気体が、人間に対してウェット・ドラ イな感じを与えるしくみと、人間同士が、人付き合いで、互いに相手に対して、ウェット・ドライな感じを与えるしくみとは、互いに共通なのではないか、と考 えられる。

すなわち、物体一般レベルで見られる、運動・移動性および引力の概念を人間に当てはめることにより、
(1)人間が、一カ所に止まってあまり動こうとせず(活発に動き回る度合いが小さく)、周囲の他者と互いに近づき、くっつき合い、離れようとしない(引力 が大きく働いている)場合、対人関係に(運動エネルギーが小さく分子間力の大きい液体分子同様)ウェットな感覚が生まれる。
(2)人間が、一カ所に止まらずにあちこち移動・流動し(活発に動き回る度合いが大きく)、周囲の他者との間に互いに近づいたり、くっつき合ったりせず、 離れようとする(引力があまり働いていない)場合、対人関係に(運動エネルギーが大きく分子間力の小さい気体分子同様)ドライな感覚が生まれる。
と考えられる。

この場合、物体サイズを分子サイズから人間サイズへと揃えて眺めることにより、両者に共通して働く、物体の動き回るエネルギーを「運動エネルギー(分子レ ベル)」=「運動・活動・移動・流動性(物体~人間レベル)」、物体間で互いにくっつき、接続・結合・集合し合い、牽制・束縛し合う力を「分子間力(分子レベ ル)」=「引力、結合力(物体~人間レベル)」として、同様に捉える事が可能となる。

上の説明を一言でまとめると、活動や運動面での活発さの差、およびそれによってもたらされる、分子間力相当の引力の大小から、それぞれウェット・ドライな 対人感覚の分化が生じる、ということになる(この説明を考案したのは1991~1992年頃、当時の資料へのリン クはこちら)。

この場合、人間においては、物理的な肉体による活動・運動や身体同士の引っ張り合いと並んで、具体的な物理運動を伴わない心理的な活動・運動や相互牽制、 接近をも同時に考える必要がある。例えば、机の前に座ったままで、知的好奇心に満たされて様々な分野の書籍を読みあさったり、いろいろ活発に物事を考えた りしている状態では、物理的には不活発だが、心理的には活発に動き回っていると捉えることができる。あるいは、物理的に離れた地点に暮らしている恋人同士 が電話によるコミュニケーションで強い心理的一体感を抱いている状態では、物理的には遠いままでも、強い心理的引力が両者の間に働いていると捉えることが できる。

このように、人間の活動・運動や引力については、物理的なものと心理的なものに分けられるが、以下ではこのうち心理的な方を主に取り上げる。人間の身体の 物理的な活動・運動や身体同士の引っ張り合いは、あくまで身体内部の神経系の活動を反映した表面的なものに過ぎず、神経系の働きに基づく心理的な活動・運 動や引力の方が、人間の行動をより根源的に決定していると考えるためである。

対人感覚でドライな感覚を与える運動・活動性の実態は、人間に内在する、あちらこちらの互いに離れた地点間を活発に移動しようとする心的指向(空間移動指 向)、および、今まで行ったことのない地点・地域へも進んで拡散していこう、新天地を積極的に切り開こう(新規対象を開拓しよう)とする心的指向(拡散指 向)である。この場合、物理的居場所や心理的に興味ある分野を変えることで生活上の雰囲気を一新し、新たな刺激を得たいという欲求や、今まで出会ったこと のない未知のものごとに対する好奇心、言い換えれば(今まで~ここしばらくの間)経験したことのない新たな(新鮮な)情報に接したいという心的衝動(新規 情報受信衝動)が運動・活動性の原動力となっている。これとは反対の、一カ所に静止して動こうとしない定住・定着・不拡散指向は、運動・活動性の欠如を意 味し、対人感覚ではウェットな感覚を与える。

一方、対人感覚においてウェットな感覚を与える心理的な引力、結合力の実体は何であるか?それは、人間に内在する、周囲の他者と心理的に近くなろう、近い 状態でいようとする指向(心理的近接指向)である。

すなわち、(心理的に)相互に引き合うということは、互いの(心理面での)存在位置を次第に近づけていき、最終的には抱き合って一つになる(一体化する、 融合する)、そして互いにくっついて離れないということである。相手への心理的な距離を縮小していき、最終的にはゼロにしよう、接続しよう、つながろうと する指向が強いと、それが互いの間であたかも引力のように感じられ、対人感覚においてウェットな感じをもたらす、といえる。

この心理的近接指向については、以下のリンクで詳細に説明している。

心理的近接とドライ・ウェットさとの関連へのリンクです。


以上の説明を分かりやすい言葉でまとめると、対人関係において、
(1)心理的に相手にベタベタくっついて離れようとしない(粘着・接着・接続・結合・集合性を持った)、そして、そのまま動こうとしない(定着・定住性を持っ た)人はウェットに感じられる
(2)相手に対してあっさりとして深入りせず、すぐサラリと離れる(非粘着・非接着・切断・離散性の)、そして、あちこち活発に動き回って移動する(運動・活 動・移動・流動性を持った)人はドライに感じられる
と考えられる。

この場合、粘着・接着力は、互いに近づき、引きつけ合い、くっつき合うことを指向する点、引力の一形態と言える。この粘着・接着力は、また、人や物をその 場に引き止めて離さず、動けなくする非移動(活動、運動)化=定着・定住化の効果も併せて持っている。

物体にせよ、人間の心理にせよ、相手にベタベタと粘着的にまとわりついて離れず、そのまま動こうとしない場合は、皆共通にウェットに感じられ、その逆は共 通にドライに感じられると推定される。


3.ドライ・ウェットと想定される行動様式の抽出

上記の説明から、ドライ・ウェットな人間行動が、実際の気体・液体分子運動のアナロジーとして捉えられると推論される。すなわち、(1)物理的な分 子の運動エネルギーの大小に準えられる、心理的な活動・運動性の大小、および、(2)分子同士における分子間力の強弱に準えられる、互いに心理的にくっつ き合おう、近づこうとする指向の強弱に応じて、人々はドライ・ウェットな性格を備え、行動様式を取るようになると捉えることが可能だと考えられる。

この考えをもとに、ドライ・ウェットの次元に乗っていると考えられる人間の行動様式が具体的にどのようなものであるかを詳細に抽出する作業を行った。

抽出に当たっては、日本を含めた東アジアの人々の行動様式がウェットで、欧米的な行動様式がドライという印象が一般に持たれているという視点に立って、幅 広く日本・欧米文化比較論の文献調査を20~30冊程度(研究者の書いた学術書に限らず、新聞記者やビジネスマンなどが書いたエッセイも含む)について行 い、ドライ・ウェットな行動様式が具体的にどのようなものであるかを把握した(1992~1993年、当時参照した文献の一覧へのリンクはこちら)。

この調査結果をもとに、ドライ・ウェットと想定される行動様式を、まず30程度大まかに抽出した(1993 年頃、当時の資料へのリンクはこちら)。その後、より具体的で詳細な内容を持つ行動様式を、できるだけ多様で網羅的となるように、60~70程度 抽出した(1996~97年頃)。この間、互いに内容面で近い、重なる項目同士をマクロな視点からグループ化・分類する作業をKJ法を用いて継続的に行 い、「個人主義-集団主義」「自由主義-規制主義」といった、行動様式の大まかな分類項目を抽出した(~1999年頃)。

なお、既に存在する大分類と内容面で似ていても、ニュアンスや視点が違うと判断した行動様式については、多様な分析視点を持つ上からも区別した方がよいと 考え、別の分類項目として立てた。また、分類項目抽出作業自体はKJ法を用いて筆者独りの力で簡単に行え、また10以上の十分な分類項目数を最初の作業で すぐに得られたので、因子分析など分類項目抽出のための統計的解析手法は特に使用しなかった。

ドライ・ウェットと考えられる行動様式の分類や詳細項目の抽出を行なった主な期間は、1992~1999年の5~6年間であるが、その後も断続的に項目追 加や分類の見直しを行っている。抽出・分類は、全て筆者一人で行った(抽出・分類に当たっての共同作業者はいない)。

具体的な行動様式項目の抽出過程においては、分類を、更に階層化・細分化するなど見直して修正した方がよい場合もいくつか生じたので、その都度、分類のあ り方を柔軟に変更した。2001年3月現在では、2つの大分類、8つの中分類の下に、17の小分類が存在する形にまとめている。

このように収集・分類したドライ・ウェットな行動様式が、現実の気体・液体分子運動パターンとの類推、具体的には、活動・移動性の有無、心理的に近接する 指向の強弱によって一通り説明できることを確認した。説明できるとする根拠については、次の「ドライ・ウェットな行動様式の詳細な説明」の項を参照された い。


4.ドライ・ウェットな行動様式の詳細な説明

ここでは、上記抽出結果をもとに、具体的にどのような人間の行動様式が、ドライ・ウェットさと関連があるかについて、詳細に説明する。
まず、筆者が抽出した、ドライ・ウェットの次元上に乗っていると想定される行動様式の分類内容を一言で説明したものを、表にまとめた。

ドライ・ウェット行動様式一言説明の表へのリンクです。

次に、抽出したドライ・ウェットな行動様式の詳細な内容を、それらがどのように活動・移動性の有無、心理的に近接する指向の強弱によって説明できるかも含め、一通り述べる。

 



●A.心理的近接指向(ウェット)-非近接指向(ドライ)
他者と心理的に近づき(距離を縮め)、くっついて、離れようとしない指向の強さに関する。

◎A1.他者との心理的位置の同一・共通化(ウェット) -相違・差異化(ドライ)
心理的に他者のいるところへ行こう・集まろうとするかどうかについての次元が存在する。すなわち、他者と心理的に近接するためには、他者と同じところ(心 理的位置)を占める必要があり、そのために人々は集団を作ったり、密集したり、同調行動を取ったりする。


○A1.1 集団主義(ウェット)-個人主義(ドライ)

A1.1 ドライ=個人主義 ウェット=集団主義
定義 互いに一人ずつ単独・個別にバラバラに動こうとする 互いに集まり、まとまって動こうとする
No. [例↓] [例↓]
1 単独・ひとりで行動するのを好む 集団・団体で行動するのを好む
2 他者からの分離・独立を好む 他者との一体化・融合を好む
3 自分個人の利益を優先する 自分の属する集団の利益を(個人の利益よりも)優先する
4 ひとりで他者とは別の道を歩むのを好む ひとりで他者とは別の道を歩むのを好まない



[説明]

各個人に、心理的な引力、他者へと心理的に近接しようとする考えが働いている状態では、個人同士は、互いにくっつき合うことで、互いにまとまりを作り、一 つに集まる(のを好む)。心理的に互いに接近し合うことで、各人が一つの集団・団体の中で、互いに心理的にくっついて一体化し、融合することになる。いっ たんくっつき合って集団を作ると、その中で互いに引き合い、まとまり合う力が働いて、みんな一緒にいようとする。集団を作って互いでひとまとまりでいる状 態を維持しようとし、集団を割ろうとする力を否定しようとする。こうした集団内では、人々を集団に引き止める力(集団凝集性)が働いており、集団・団体で い続けようとし、集団全体の動きを、自分個人の動きよりも重要視するようになる。これは、集団全体の利益を、自分個人のそれよりも、優先しようとすること につながる。中にいる個人が外に独りで出ようとする(脱退しようとする)と、それと反対方向に力が働いて、集団の中に引き戻そうとする。このように、互い に集まり、まとまって動こうとすることを、集団主義と呼ぶならば、集団主義は、互いに心理的に近接しひとまとまりになることを指向する点、ウェットな行動 様式と言える。

一方、各個人に、他者へと近接しようとする考えがあまり働かないと、個人同士は、互いに近づき合って集まることなく、互いにバラバラに離れたままでいよう とする。互いに一人ずつ個別にバラバラに動こうとする。したがって、集団・団体は、目的がない限り自然には発生しない。いったんできた集団を割ることも平 気である。個々人は、周囲からの引力を気にせずに、単独(ひとり)で自由に動き回る(自分自身の動きや進行方向を決定する)ことができ、周囲の他者とは別 の道を突き進むことができる。その点で、自分個人の動きや利益を優先することが可能である。集団外に抜け出そうとするときに、周囲の他者から、それを引き 止めようとする引力が働かないので、簡単に脱退できる。このように、互いに一人ずつ単独・個別にバラバラに存在しようとしたり動こうとすることを、個人主 義と呼ぶならば、個人主義は、互いに離れて、心理的に近接することを指向しない点、ドライな行動様式と言える。



○A1.2 密集指向(ウェット)-広域分散指向(ドライ)


A1.2 ドライ=広域分散指向 ウェット=密集指向
定義 互いに広い領域に散らばる 互いに狭い領域に密集する
No. [例↓] [例↓]
1 広い空間に分散していようとする 狭い空間に密集していようとする
2 一人ずつ個室にいるのを好む 多人数で大部屋にいるのを好む
3 ものの見方が客観的である 客観的でない
4 ものごとを見る視野が広い ものごとを見る視野が狭い


[説明]

各個人に、他者へと心理的に近接しようとする考えが働いている状態では、各人は互いに近づき、くっつき合うことで、相手との距離がなくなる方向に進む。相 互に隔てのない方向へと近接することで、互いに(大部屋のように)隔てのない、狭い空間に、互いにひとまとまりになって密集するようになる。この場合、互 いに狭い範囲内でものごとを見ることになり、視野が狭くなる。あるいは、互いの間に十分な距離をとって眺めることができないため、客観性に欠けることにな る。互いにより高い密度でまとまることを指向するため、権限などがどんどん皆が集まる中央に集中し(中央集権)、周辺に広がって行こうとしない。このよう に互いの距離を小さくする指向は、密集指向という言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。

一方、各個人が他者へと心理的に近づこうとする度合いが小さい場合、互いに近づき合ってまとまり合うことが少ない分、より低い密度で広い空間内に、互いに 分散して(距離を大きく取って、離れて)存在する。仮に分布可能な領域が狭い場合、人々は、個室にいること、すなわち、壁やドアによって、他者のいる空間 から隔離される(他者のいる場所からの距離を大きく取る)ことを指向する。広い領域に分散しているため、一度に広い範囲のものごとを見ることができ、視野 が広い。互いの間に十分な距離をとって眺めることができるため、ものの見方に客観性がある。互いにより低い密度で周辺に広がっていくことを指向するため、 権限などがどんどん地方に分散していく(地方分権)。このように、互いに距離を大きくとって、分散して分布することへの指向は、広域分散指向という言葉で まとめることができ、ドライな行動様式と言える。


○A1.3 画一(同質)指向(ウェット)-多様性の尊重(異質指向)(ドライ)


A1.3 ドライ=多様性の尊重(異質指向) ウェット=画一(同質)指向
定義 互いの多様性を重んじる 互いを画一的な枠にはめようとする
No. [例↓] [例↓]
1 横並びであろうとしない 周囲の他人と横並びであろうとする
2 自分とは異なる意見を持つ人に対して寛容である 自分とは異なる意見を持つ人に対して寛容でない
3 人々の多様性を認める 人々を画一的な枠にはめようとする


[説明]

各個人に、他者へと心理的に近づこうとする考えが働いている場合、心理的に近接しようとすることで、互いに心理的に同じところ(位置・場所)に集中しているようにしようとする。互いに存在する位置を同じ(共通)にしようとする。物理的・心理的に互いに同一の位置を集中して占めようとすることで、互いに画一 的な状態で横並びすることになる。存在位置が画一化した状態でひとまとまりになるため、そこから一人別の位置に行こうとする(存在位置の点で個性的あろうとする)ことをしない(没個性的である)。また、画一的な自分たちの中で個性的になろう(自分たちとは別の位置を占めようとする)個人の存在を、認めよう とせず、自分たちのいる位置へ引っ張り込もうとする(異なる意見の持ち主に対して寛容でない)。このように、互いに心理的に同一の存在位置にいることを指 向することは、画一(同質)指向という言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。皆が同じ心理的存在位置を取ることは、その位置に皆が密集 することであり、その点、密集指向とも関係がある。

一方、各個人が他者へと心理的に近接しようとする度合いが小さい場合、人々は相互に引き付け、まとまり合う度合いが少なく、存在する位置が、互いにバラバ ラに離れている(多様である)のを許容する。空間内での分布のはずれ値が多い(分布の幅が大きい)。互いに相手とは異なる独自の位置に存在する、という思 いから、自分とは異なる意見の持ち主の存在に対して寛容である。このように心理的にバラバラ・多様な位置を占めることを指向することは、多様性の尊重ない し異質指向という言葉でまとめることができ、ドライな行動様式と言える。各自が互いに離れた別々の心理的存在位置にいようとすることは、各自の居場所が心 理的に広く分散していると言え、広域分散指向とも関係がある。


○A1.4 同調指向(ウェット)-反同調指向(ドライ)

A1.4 ドライ=反同調指向 ウェット=同調指向
定義 取る行動を互いに合わせようとしない 取る行動を互いに合わせようとする
No. [例↓] [例↓]
1 周囲の皆と違ったことをしようとする 周囲の皆と同じことをしようとする
2 他人の真似をするのを好まない 他人の真似をするのを好む
3 個性的であろうとする 没個性的であろうとする


[説明]

自分の行動や進行方向を周囲の他者に合わせよう(互いに同じにしよう)とすること(同調への指向)は、周囲の他者と心理的な位置を同じくしようとして、近づき合うことを意味する。同じ心理的位置を共有する仲間の数がより多く集まることで、その心理的位置における人口密度が高まる。それは、個人間に心理的引力が働いて、その結果、同一の心理的位置に各人が密集したことを指す。周囲の他者と同じことをしようとする(周囲の他者の真似をする)ことは、心理的に互 いに同質化して近づこうとする(同一の位置を占めようとする)ことを意味する。意見の同じ者だけでまとまろうとするのも、相互の心理的同質性を確保して、 心理的に同じ位置を持つことで、互いに一体・融合化しようとする姿勢の現れである。一人だけ孤立するのを避けて没個性的であろうとするのも同じ行動様式で ある。こうした指向の持ち主は、だれかと一緒にいないと不安で仕方がない。孤独に耐えられない。これらの行動様式は、いずれも、心理面引力を働かせて、互 いにひとまとまりになって心理的に同じところにいようとする動機を含んでいる。このように、周囲の他者と行動を同調させることへの指向、すなわち同調指向 は、周囲の他者と互いに心理的に同一の位置を保持することにつながり、ウェットな行動様式と言える。

各自が他者へと心理的に近接しようとする度合いが小さい環境下では、個人は、心理面で、互いにひとまとまりになろうとする引力から自由になって、互いに別 々の(違った)、独自の(個性的な)位置を確保することが可能である。周囲の他者と心理的位置を共有する方向への引力が働かないので、行動を周囲の他者に 合わせようとすることがない(周囲の皆と違ったことをする、他人の真似をしない。周囲からの孤立を恐れない。)このように、周囲の他者に行動を同調させな いことへの指向(反同調指向)は、周囲の他者と心理的な近接を行おうとしない点、ドライな行動様式と言える。


○A1.5 主流指向(権威主義)(ウェット)-非主流指向(反権威主義)(ドライ)

[例]

A1.5 ドライ=非主流指向(反権威主義) ウェット=主流指向(権威主義)
定義 自分の取る意見について主流でなくて構わないとする 自分の取る意見について(すでに認められた)主流派の後を付いて行こうとする
No. [例↓] [例↓]
1 少数派に属するので構わないとする 主流派の一員でいようとする
2 権威あるとされる者の言うことを信じにくい 権威あるとされる者の言うことを信じやすい
3 ブランドにこだわらない 物を購入するときブランドにこだわる


[説明]

主流とは、相対的により多数の人々が既に集まっている方の集団のことである。そうした主流を指向するのは、皆が既に大勢集まっているところ(メジャーなと ころ)に自分も行ってその仲間に加わろうとすることを意味する。そうした、既に人数がたくさんいる多数派・主流派と一緒になろうとする主流、メジャー指向 は、心理的には、既に人々が沢山密集している位置と、自分のいる位置を合わせよう、同じにしようとすることになり、より大勢と互いに近接し、くっつこうと する点、ウェットな行動と言える。

権威ある者(例えば、有名大学医学部の教授や、高級ブランド品のデザイナー)は、その周囲に既に心理的追従者が沢山集まっており、その存在を既に揺るぎな いものとした多数派(主流派)の中での中心人物として位置づけられる。そういう意味で、権威ある者のいる辺りは、最も心理的な人口密度が高い。権威を信じ ることは、心理的な高人口密度の中に参加できることを約束するものであり、権威あるとされる者のいうことを信じたり、後追いをしやすいこと(権威ある商品 ブランドに対する信仰など)は、心理的距離空間内において沢山人が集まっている人口密度の高いところに自分も行きたい、密集したいと考えやすいことを指し、互いに集まり合うという、心理 的引力を行使することにつながる点、主流指向の一形態であり、ウェットな行動様式と言える。


主流を指向しない(非主流であろう、マイナー指向であろうとする)のは、少数派で構わないという行動様式である。人があまり集まっていない、閑散とした方 に行こうとすることである。閑散としたところは、人口密度の低い、人々があまりおらず、互いに離れているところを指し、そうしたところに行くことを指向す る、非主流、マイナー指向の行動様式は、ドライな行動様式であると言える。

権威を信じないことは、権威に引き寄せられた多数派(主流派)の人々の中に進んで入ろうとしないことであり、あえて主流に入らない、集まろうとしないで、 独自の道を歩もうとする行動様式である。心理的距離空間内において、他者が密集しているところ(権威ある者や彼らが作った商品のあるところ)に集まろうと しない、距離を取ろうとする行動であり、その点、非主流指向の一形態であると言える。これは、ドライな行動様式である。


(追記)
なお、身分との関係については、上流階級が、その社会の中でより主流の重要な位置を占めており、一方下層階級は、マイナーな、目立たない非主流の地位に追 いやられている。

上流階級を指向する(例えば、上流階級の文化を自分も真似ようとする高級指向の)行動は、社会的主流派に属しようとする、すなわち、皆が憧れ行きたがる、 集まりたがる社会的位置に自分も行こうとする行動であり、その点ウェットであると言える。

また、身分の上下にうるさくこだわり区別する態度は、自分が社会的に偉い=権威がある、主流であるかどうかにこだわることであり、主流派の価値観に染まっ ていることを示す。その点、主流指向であり、ウェットであると言える。

こうした身分の上下を区別することへの指向の強さと、当人が実際に属している身分の高さとは、必ずしも一致しないと見られる。例えば、日本において、「お 上」=官公庁の権威に対して恭順する態度を取る下層階級の庶民は、「お上」=「官」という組織が持つ、主流の価値を無批判に受け入れ、それに合わせようと している点、例え、その所属が非主流であっても、主流指向であり、ウェットである。




◎A2.他者との関係・縁故の構築(ウェット) -非構築(ドライ)
他者との間に関係・縁故を積極的に築こうとするかどうかについての次元が存在する。互いに心理的引力によって他者を指向する者同士が、互いに指向し合った 他者と新たに心理的に結合・接続した状態をそのまま維持することで、縁故を作り出す。


○A2.1 関係・接続指向(ウェット)-非関係・切断指向(ドライ)

A2.1 ドライ=非関係・切断指向 ウェット=関係・接続指向
定義 他者との間であまり人間関係を持とうとしない(関係を切ろうとする) 他者との間に積極的に人間関係を持とう、つながろうとする
No. [例↓] [例↓]
1 他人との触れ合いを好まない 他人との触れ合いを好む
2 周囲の他者に良い印象を与えようとは特に気にしない 周囲の他者に良い印象を与えようといつも気にする
3 人付き合いのあり方がよそよそしい 人付き合いのあり方が親密である
4 自分の内面を他者に開示したがらない 自分の内面を他者に開示したがる


[説明]

各個人に、他者へと心理的に近接しようとする考えが働いている状態では、個人は互いに自分が他者を引力によって自分のもとへと引き寄せる、あるいは他者に 近づくことで、互いに他者を指向することになる。すなわち、他者と互いに引き付け合い、近づき合う関係に入ることを重視 するようになる(人間関係そのものを重視する)。相互に引き付け合うことで、互いに他者と十分な近さまで近づきあうことで、触れ合うようになることを好 み、その結果、相互の関係は親密なものとなる。互いに近い距離にいる、同じ位置を共有するようになり、心理的な面からは互いに共感し合う状態になる。自分 と他者とが、互いに引き付け合って心理的・物理的に一体化することを望みやすくなる(愛という言葉を使うのを好む)。互いに心理的に近い存在になろうとす るために、周囲の他者に気に入られようとしたり、よい印象を与えようと気にしたりする。あるいは、自分の内面を他者に対して積極的に開示して、互いに相手 と関心を共有しようとする(ことで心理的に同じ位置を占めよう、心理的に近づこうとする)。このように相手との関係を積極的に築こう(結合、接続しよう、 つながろう)とすることは、関係指向ないし接続指向という言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。関係指向は、他の人間を直接の指向対象 とすることから、人間指向ということもできる。

各個人が、周囲の他者と心理的に近づこうとしない状態では、互いを引力によって引き寄せ、近づき合う、互いに他者(人間)を指向するという契機に欠ける。 その点で、人間関係を何かの手段としてしかみない。相互に引き付け合って近づくことがないため、他人との触れ合いを好まず、人付き合いのあり方がよそよそ しい。互いに心理的にバラバラな位置にいるので、互いに共感し合うことが少ないし、相互間の配慮も少ない(足りない)。互いに相手と関心を共有しようとい うことがないため、自分の内面を相手に開示したがらないし、相手にあえて気に入られようとすることもない。自分たち人間とはかけ離れた、無機物を指向す る。このように、互いに心理的に離れたままでいようとして、他者との関係を築くことを指向しない(ないし、相手との関係を切る、断つことを指向する)の は、非関係指向ないし切断指向という言葉でまとめることができ、ドライな行動様式と言える。



○A2.2 縁故指向(ウェット)-非縁故指向(ドライ)

A2.2 ドライ=非縁故指向 ウェット=縁故指向
定義 他者との関係を持つ上で既存の縁故の有無を問わない 既に結び付き(縁故)のある他者との関係を優先する
No. [例↓] [例↓]
1 縁故(コネ)を重んじない 人付き合いで縁故(コネ)を重んじる
2 親分子分関係を好まない 人付き合いで親分子分関係を好む


[説明]

個人同士が互いに心理的な引力によって、くっつき合う(心理的に一体化し合う)状態になるのを繰り返すことによって、人と人との間の結合 connection自体に慣れが生じる(結びついた状態が日常化し、癒着が生じる)。人間同士が互いに慣れた結びつきを持って、互いに引力を及ぼしてい る状態が「縁故がある」ことになる、と考えられる。相互に心理的に近づくおかげで人間同士が強い紐帯、癒着を持つに至ることが可能となる。相互間の引力に よって互いに結びついていることが当然となった人間同士の関係は、血縁関係で結ばれた家族同様のレベルまで深まることもしばしばであり、そのときには、家 族的な雰囲気を現すようになる、と考えられる(実の親子と擬制する親分子分関係など)。このように相互間の強い結合が日常化・長期化することを指向するの は、縁故指向という言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。

各自の持つ、他者にくっつこうとする引力が小さいと、他者との結合connectionが生まれにくく、縁故ができにくい。人間同士の紐帯、癒着が弱い。 あるいは、人付き合いのレベルが浅く、家族的でない。相互間の結合が生じにくい状態を指向するのは、非縁故指向という言葉でまとめることができ、ドライな 行動様式と言える。




◎A3.行動決定の自由(ドライ)-不自由(ウェット)
自分の思った方向に自由に行くことができるかどうかについての次元が存在する。互いの間に心理的に近接しようとする引力が働いていると、その引力がしがら みとなって、人々は心理的に自由に動けなくなる。

○A3.1 規制主義(ウェット)-自由主義(ドライ)

A3.1 ドライ=自由主義 ウェット=規制主義
定義 互いに自由に行動しよう(動き回ろう)とする 互いに行動を規制し合う
No. [例↓] [例↓]
1 行動の自由を規制されることを好まない 行動の自由を規制されることを好む
2 互いに自由に行動することを許す 互いに相手の行動を牽制し合う(足を引っ張り合う)
3 互いに束縛しあうのを好まない 互いに束縛しあうのを好む
4 抜け駆けを許す 集団内で一人だけの抜け駆けを許さない
5 失敗を犯した本人のみの責任とする 一人の犯した失敗でも周囲の仲間との連帯責任とする


[説明]

各個人が他者に対して心理的に近づこうとして働かせる引力が大きいと、その引力がしがらみとなって、各人は、自分の当初進みたいと思う方向へ向かって、自 由に動き回ることができなくなる。心理的引力は、個人同士の互いの動きを、互いに近づき合って、牽制・束縛・拘束し合う(足を引っ張り合う)方向に向かわせる。こうした相互の動きを縛り合う人間同士の引力が働いた状態が、「規制」がある状態である。人間関係において、互いの間に引力が働いていると、それが 人間同士の自由な行動を抑え込む力となって(しがらみとなって)、身動きが取れなくなる。
個人同士の間に引力が働いている状態では、一人が周囲から外れた行動を起こそうとすると、周囲の他者からの、相手が一人離れて行くことを許さない、一緒に くっついたままでいようとする引力によって、その行動を規制される。これが、足の引っ張り合いや、しがらみがある、行動の自由がない、と行動を起こした本 人に感じられるもととなる。
心理的引力の存在する状態で、一人が行動を起こすと、引力が働いているため、周囲の他者がついでに引っ張られてしまうなど影響が広く及ぶため、行動を起こ した結果(例えば失敗)についての責任は、行動を起こした本人一人のみに限定されず、周囲の皆の連帯責任と見なすことになる。こうした状況では、個人が単独で自由行動を完遂するのは不可能である。そのため、周囲の他者が同意しない限り行動を起こさない、といった方策が取られることになる。
心理的引力がある集団内では、一人だけの抜け駆けができなくなる。一人が抜け駆けしようとすると、引力が、抜け駆けしようとする本人と周囲の他者との間に 働いて、周囲の幾人かもそれにつられて動いてしまったり、周囲の他者が抜け駆けしようとする本人に対して、自分たちの中に引き戻そうとする力を働かせよう とするためである。一人だけで動こうとしても、周囲の他者との間に働く、複数の互いの近さを維持しようとする心理的引力がしがらみとなって、自由に動けな い。
このように互いの動きを規制し合う状態を指向することは、規制主義という言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。

一方、個人が他者に対して働かせる心理的引力が小さいと、個人同士は、互いに近づき合って、束縛・牽制し合うことがあまりない(人間関係のしがらみがな く、自由に身動きできる)。自分がある方向に動こうとしたときに、互いに引力で相手の足を引っ張り合うことなく、だれにも規制されずに自由に動き回ること ができる。一人一人が、互いに周囲の状況から独立して(抜け駆けしてなど)、自由に自分の行きたい方向へと、常に進むことができる(互いに自由に行動する ことを許す)。行動を起こした結果に対する責任は、行動した本人にのみ限定することが可能である。このように互いに自由に動き回れる状態を指向すること は、自由主義という言葉でまとめることができ、ドライな行動様式と言える。




◎A4.行動の自己決定(ドライ) -非決定(ウェット)
自分の行動の決定が自分だけでできるかどうか(他者の意向に沿う必要があるかどうか)についての次元が存在する。心理的な引力が働いていると、互いに自分 の行動が自分一人では決められず、周囲の他者の動向次第になってくる。


○A4.1 相互依存指向(ウェット)-独立・自立指向(ドライ)

A4.1 ドライ=独立・自立指向 ウェット=相互依存指向
定義 互いに独立・自立して行動する 互いに依存し合う(もたれ合う)
No. [例↓] [例↓]
1 互いに自立しているのを好む 人付き合いで互いにもたれあうのを好む
2 独立心が強い 依頼心が強い
3 甘えを嫌う 互いに甘えあおうとする
4 派閥を作るのを嫌う 派閥を作りたがる


[説明]

各個人が周囲の他者に対して心理的に近づこうとしている状態では、互いに引き付け、くっつき合うことで、互いに相手に寄りかかりあう、すなわち、相互にもたれ合う関係になる。心理的引力が強いと、自分の行動が相互に相手の行動次第で決まるようになる。自分の行動が相手の動きに依存する。自分のあり方を決めるのに、相手へ心理的に寄りかかる度合いが増える。相互に寄りかかりあうことで、互いに相手の状態に依存し合うことになる。互いに、相手に寄りすがろうと することになり、その点依頼心(甘え)が強くなる。言い換えれば、心理的引力が強いと、自分の行動が相互に相手の行動次第で決まるようになる。その点、自 分の行動が相手の動きに依存する。すなわち、行動が相互依存的になる。また、自分のあり方を決める相手へと心理的に寄り掛かる度合いが増えて、依頼心が強 くなることになる。これは、各自が互いに依存し合う状態で、ひとまとまりになり(=派閥を作り)、外部に対して、一つにまとまった自分たちの勢力をアピー ルしようとすることにもつながる。このような相互にもたれ合う関係への指向は、相互依存指向という言葉でまとめることができ、心理的引力に基づく指向であ ることから、ウェットな行動様式と言える。

一方、各個人が周囲の他者に対して心理的に近づこう、心理的引力を行使しようとしない場合、個人が自分の動きを決定するのに、周囲の他者の動きの影響を受 けることが少なくなり、自分のことは自分で決定して行動できる(周囲の他者に行動を依存しないで済む。周囲の他者に自分の行動を決定される度合いが少な い)。その点、周囲の他者からは独立・自立している。互いに寄りかかり合うことがなく、依頼心(甘え)は少ない。こうした独立・自立ヘの指向は、心理的引 力が弱く、互いに無関係に動き回る場合に顕著となることから、ドライな行動様式と言える。



○A4.2 他律指向(ウェット)-自律指向(ドライ)

A4.2 ドライ=自律指向 ウェット=他律指向
定義 自分で自分の意思を決められる 自分の意思を自分だけでは決められず、周囲に決定を任せる
No. [例↓] [例↓]
1 自分の意見を持っている 周囲の意見に左右されやすい
2 周囲の流行に振り回されない(左右されない) 周囲の流行に振り回される
3 自分の今後の進路を自分一人で決められる 決められない(周囲の影響を受ける)


[説明]

他者と互いに心理的に近接しようとする引力の只中にいる個人は、自分の行動や進行方向を、周囲の他者によって決定されることを指向する(ないし、せざるを 得ない)。引力の働いている状態では、各人が周囲の他者からの相手を自分から離れようとさせない引力の影響(牽制など)を受けて、自分の動く方向を好む好 まざるとにかかわらず変える必要に迫られる(自主性が保てない)。自分の進路は、自分の周囲に存在する他者由来の引力との兼ね合いで決まり、自分一人だけ で決めることはできない。その意味で、周囲の他者による影響が大きい。すなわち、自分の動きが単独独立で決まらず、周囲との文脈によって決定される「文脈 依存的」な行動を取ることになる。

周囲の流行に振り回されるということは、周囲から発せられる心理的な引力(友人による「私は既に○○したわ。あなたも○○しない?(そうすることで私と一 緒にならない?)」といった勧誘)に引かれるままに動くことである。引力は、その中にいる個人に対して、起こす行動における主体性の欠如した、周囲の意見 に左右されやすい(自分の意見を持っていない)状態を引き起こす。このように、周囲の他者からの引力に自分の行動や進行方向を任せた(預けた)状態になる のを指向することは、他律指向と言う言葉でまとめることができ、ウェットな行動様式と言える。

一方、他者との間における心理的近接の度合いが小さい場合、各人は、自分の行動や進行方向を、周囲の他者からの引力に影響されず、自分一人で決定すること ができる(自主性を保てる)。自分の動く方向を、周囲の他者の動きに合わせて変える必要がない。周囲の動向(流行など)に振り回されず、自分の意見を持ち 続けることが可能である。自分の行動・進行方向を周囲の他者からの引力に影響されずに一人で決めることができる状態を指向することは、自律指向という言葉 でまとめることができ、ドライな行動様式と言える。




◎A5.プライバシーの確保(ドライ) -不確保(ウェット)
自分の私事を秘密にすることができるかどうかについての次元が存在する。他者に対して心理的近接を試みることは、その分他者および自己のプライベートな領 域を侵害する可能性を絶えずはらんでいる(他者に近づく分、自分の状態が他者に丸見えになる)。また、相手との距離を近く保とうとする心理的引力の働いて いる状態では、互いに他者に対して何らかの行動を起こすことで、反作用として、他者から、他者自身が何を考えていたかフィードバックを得ることができ、互 いのプライバシーは侵害される。


○A5.1 反プライバシー(ウェット)-プライバシー尊重(ドライ)

A5.1 ドライ=プライバシー尊重 ウェット=反プライバシー
定義 互いのプライバシーを重んじる 互いのプライバシーを重んじない
No. [例↓] [例↓]
1 他人のプライバシーには干渉しない 他人のプライバシーに介入したがる
2 互いに監視しあうのを好まない 互いに監視しあうのを好む
3 他人のうわさ話をするのを好まない 他人のうわさ話をするのを好む
4 当局への密告を好まない 当局への密告を好む
5 自分が他人にどう見られるかを気にしない 自分が他人にどう見られるかを気にする
6 化粧をするのを好まない 化粧をするのを好む


[説明]

他者と心理的に近づくことによって、頻繁にくっつき合い、接触し合うことは、互いのプライベートな空間への絶え間ない侵入を引き起こすことにつながり、他 者(ないし自己)のプライバシーへの干渉(私事への介入)に結びつく。他人のうわさ話をするのを好む、ないし当局に他人の動向を密告しようとすることは、 自分が(話や密告の種となる)他者のことを監視し、他者のプライバシーに介入するのを好むことを示す。
自分が他人にどう見られるかを気にするのは、周囲の他者からのまなざしによる牽制・監視を通じて、互いに何をしているか、互いに自分から離れて何か変なことを起こしはしないかを気にする、互いのプライベートな領域に侵入し合う(プライバシーに介入し合う)引力の存在を感じるからである。化粧をしたり、容 姿、服飾に気をつかうのは、そうした他者による、自分のことをを牽制する視線の存在を予め意識して、自分の外観(顔や服装)を他者に効果的に映るように (他者を逆に牽制する形で)コントロールすることである。こうした化粧、服飾行動は、他者の視線を一身に集めることで、他者を心理的に自分の身の回りに近づけ、積極的にプライバシーを放棄することにつながる。見栄を張るのも、他者に自分がよく見えるように、自分の見た目をつくろうことであり、他者の視線に よる牽制を前提とした行動である。
こうした相互監視・相互牽制によるプライバシーへの干渉が起きやすいことは、互いの間に心理的引力が働いていることと相関関係にあり、ウェットな行動様式 であると言える。

一方、他者に心理的に近づく度合いが小さいと、互いにくっつき合う(接触し合う)ことがないため、互いのプライベートな空間へと侵入を引き起こすことがな くなり、プライバシーが尊重された状態が保たれる。この状態では、互いに視線の送り合いやうわさ話、密告などで、相手を監視・牽制し合う、といったことが なくなる。こうした状態を好むのは、心理的引力を働かせようとしない点、ドライな行動様式であると言える。




◎A6.行動の明快さや合理性の確保(ドライ) -不確保(ウェット)
自分の行動に明快さや合理性を保つことができるかどうかについての次元が存在する。個人が、当初単独で明快・合理的に行動しようと思っても、周囲から引力 という名の横やりが入ったり、周囲の人々の動向が気になると、行動はいつのまにかあいまいで非合理的なものになってしまう。

○A6.1 あいまい指向(ウェット)-反あいまい(明快)指向(ドライ)


A6.1 ドライ=反あいまい(明快)指向 ウェット=あいまい指向
定義 自分の取る意見が率直・明快である 自分の取る意見がが率直・明快でない
No. [例↓] [例↓]
1 物の言い方が率直である 遠回し・婉曲である
2 物事の白黒をはっきりさせようとする あいまいなままにとどめようとする
3 自分の今後の進路をはっきりさせようとする あいまいなままにとどめようとする



○A6.2 非合理指向(ウェット)-合理指向(ドライ)

A.6.2 ドライ=合理指向 ウェット=非合理指向
定義 物事に対して心情的に割り切って、合理的に行動する 物事に対して心情的に割り切ることができず、合理的でない
No. [例↓] [例↓]
1 考え方が合理的である 非合理的である
2 考え方が科学的である 非科学的である
3 宗教を信じない 宗教を信じる



[説明]

ある個人が特定の方向に進もうとしたとき、自分の周囲の多方面から引力を受けると、その影響で、進行方向があいまいとなる。すなわち、心理的引力が働く対 人関係においては、当初明確な意図を持って動こうとしたとしても、周囲の他者からの引力による介入・調整の繰り返しにより、いつしか進行方向があいまい、 不明瞭(玉虫色)となる。物の言い方も、率直さに欠けた遠回し・婉曲なものになる。
また、他者との相互間に引力が働く環境下では、周囲の他者からの、相互の近さを保とうとする引力による介入を断ち切れず、割り切った行動を取れないため、 自分のいったん決めた方向に向かってまっすぐ進むことができず、合理的な論理や計画が、曲げられてしまう。進む方向が、その場の周囲からの引力の働く方向 (雰囲気)に絶えず影響されて、一時の感情にまかせて、気まぐれにアトランダムに変わってしまうため、自分で論理的な方針を組み立てることができず、合理 的な方向へと進んでいくことができない。
このように、人が周囲に対してあいまい・非合理的な行動様式を取ることは、心理的引力がもたらすところのウェットさに基づく。


他者との間に働く心理的引力が少ない状態では、個人の動き(今後の進路を含めて)が、周囲の他者からの引力による干渉を受けて曲がることがないので、まっ すぐ(率直)・はっきり(明快)な状態を続けることが容易である。当初明確な意図を持って動こうとしたとき、周囲の他者からの心理的引力による介入・調整 がないので、進行方向がはっきりした、明確な状態を続けることができる(あいまいさが生じない)。物を言うに当たって、的に向かってずばり直球を投げ込む ように、率直さを保てる。
また、他者との間に心理的引力が働かない状態では、周囲の他者からの引力による介入から自由になることができ、割り切った行動を取れるため、自分のいった ん決めた方向に向かってまっすぐ進むことができ、合理的な論理や計画が、曲げられることなく貫徹可能である。進む方向が、引力に影響されることがないた め、自分で論理的な方針を組み立てることが可能であり、合理的な方向へと進んでいくことができる。
このように、人が周囲に対して明確な、あいまいでない、合理的・論理的な行動様式を取ることは、心理的引力から自由なドライさに基づく。




◎A7.集団の開放性の確保(ドライ) -不確保(ウェット)
集団の表面を閉じようとする力(表面張力)が働いているかどうかについての次元が存在する。集団内部に互いに引き付け合ってまとまろうとする力(集団凝集 性)が強ければ、集団は外部に対して門戸を閉ざすこととなる。

○A7.1 閉鎖指向(ウェット)-開放指向(ドライ)

A7.1 ドライ=開放指向 ウェット=閉鎖指向
定義 開放的な集団にいるのを好む 閉鎖的な集団にいるのを好む
No. [例↓] [例↓]
1 開放的な人間関係を好む 閉鎖的な人間関係を好む
2 身内・外の区別にこだわらない 人付き合いで身内・外の区別にこだわる
3 集団外のことにも関心を持つ 自分の属する集団内のことにしか関心がない
4 仲間内以外の人も受け入れる 付き合いで仲間内以外の人を排除する


[説明]

各個人が他者に近づこうとする心理的引力がある状態では、各人の間に、互いに距離を縮める方向へとスクラムを組み、自分の属する集団の表面積を互いに手を 取り合ってできるだけ小さくしようする力が対人関係において働いており、他者は形成済の集団の表面から中に入ることができない。こうした力は、1)外部の者を中に入れようとしない、2)集団内の仲間が表面から外に出ようとすると中に引きずり込もうとするものであり、物理的液体における「表面張力」に相当する。こうした状態では、人々は閉鎖的な対人関係を好み、自分が属する集団・仲間内の相手としか付き合おうとしない(自分の属する集団内のことにしか関心が ない)。こうした表面張力のような力が働いている閉鎖指向は、心理的引力に基づくウェットな行動様式であると言える。

他者に近づこうとする心理的引力がない状態では、集団の表面部分~内部の各人が互いに手を取り合って結託し、よそ者を入れようとしない表面張力のようなも のは、対人関係において存在せず、形成済の集団の表面から中に入ることが容易に可能である(外部の者に対して中が開放されている。集団内の仲間が表面から外に出るのも自由である)。開放的な対人関係を好み、自分が属する集団・仲間外の相手とも付き合おうとする(自分の属する集団外のことにも関心を持つ)。 こうした表面張力が存在しない開放指向は、心理的引力とは無縁のドライな行動様式であると言える。


 

●B.心理的運動・活動・移動・流動指向(ドライ)-静止・非活動・定着・定住指向(ウェット)
あちこち活発に動き回ろう、移動しようとする指向の強さに関する。

◎B1.動的エネルギー・移動性の確保(ドライ) -不確保(ウェット)
心理的な運動エネルギーが大きいかどうかについての次元が存在する。自分から進んで積極的に動き回ろう、拡散しようとする心理的な運動エネルギーが大きい と、他者からの心理的な引っ張りや牽制から自由になれる。

○B1.1 静的指向(ウェット)-動的指向(ドライ)

B1.1 ドライ=動的指向 ウェット=静的指向
定義 よく動き回ろうとする 動き回ろうとしない
No. [例↓] [例↓]
1 動作がすばやい 動作がゆっくりである
2 物事の決定のテンポが速い テンポがゆっくりである
3 行動が積極的である 行動が消極的である


[説明]

もしも、各人の自分から進んで自発的に積極的に動き回ろうとする活動性(運動エネルギー)が、相対的に小さい(速度がゆっくりである)と、当人はその場に 静止してとどまることになり、人と人との間の心理的引力を振り切って動き回ることができにくい。運動エネルギーが小さくて、対人間に働く心理的引力に囚わ れがちな静的状態への指向(静的指向)は、ウェットな行動様式と言える。

一方、各人の、自分から進んで自発的に積極的に動き回ろうとする、活動性(運動エネルギー)が、(気体分子同様)相対的に大きい(速い)と、当人はその場 に静止することなく動き回ることになり、個人間の心理的引力を振り切るだけの運動エネルギーにあふれている。このように、運動エネルギーが大きくて、対人 間に働く心理的引力に囚われない動的状態への指向は、動的指向という言葉でまとめられ、ドライな行動様式と言える。


○B1.2 定着指向(ウェット)-非定着(移動・拡散)指向(ドライ)

B1.2 ドライ=非定着(移動・拡散)指向 ウェット=定着指向
定義 今いる土地や組織に定着せず絶えず移動しようとする 今いる土地や組織に定着しようとする
No. [例↓] [例↓]
1 絶えず移動する(遊牧)生活を好む 一カ所に定住する(農耕)生活を好む
2 人事が流動的なのを好む 人事が停滞しているのを好む
3 短期的契約関係を好む 長期にわたる取引関係を作るのを好む
4 常に新分野へと拡散しようとする いつまでも今までいた分野にとどまろうとする


[説明]

自分から進んで動こうとする運動エネルギーに欠けていて、かつ、心理的引力の只中で、自分がある方向に移動しようとすると必ずそれに対する引き戻しの力が かかる状態では、個人は、いつまでも既存の、今まで、自分がその場所に存在したり、その中に所属していた、集団などの対人関係(組織)の中に、外に拡散す ることができずに、現状維持のままとどまり続ける(定着、定住し続ける)。人間関係が固定的(人事が停滞的)だったり、相手との取引関係が長期にわたるよ うになる。これは、定着指向という言葉でまとめられる。

自分から進んで動こうとする運動エネルギーに満ちていて、心理的引力が小さい状態では、個人は、自由に、今までいた場所や、所属していた集団を離れて、一 カ所に定着することなく、新しい境地へと絶えず動き回ることが可能である。この状態では、人間関係は、流動的な(短期契約的で、すぐ切れやすい)ものとな り、短期間で次々所属する組織を変わることになる。これは非定着指向という言葉でまとめられる。


○B1.3 前例指向(ウェット)-独創指向(ドライ)

B1.3 ドライ=独創指向 ウェット=前例指向
定義 誰も行ったことのない未知の領域に進もうとする 自分が今までいた領域にとどまろうとする
No. [例↓] [例↓]
1 行動の基準を新規の独創的なアイデアに求める 行動の基準を既存のしきたり・前例に求める
2 前人未踏のことにもあえて挑戦する 前例があることだけをしようとする
3 現状を変革するのを好む 現状をそのまま追認するのを好む


[説明]

今までいたところに、いつまでも、居続けようとする(一カ所に定住・定着する)状況下では、個人は、新境地(新分野)への移動・拡散性が欠如しており(冒険しようとしない)、行動の基準を、従来から存在するしきたりや前例に求める。しきたりや前例は、定住先で生活するために従来必要であった知識の蓄積であ り、その有効性に関してチェックを行わないまま(今までと同じ環境下に居続けるのであれば不要である)、無批判にそのまま受け入れることになる(現状の追認を好む)。新天地へ積極的に出ようとする姿勢が欠如しているため、自分のアイデンティティ確立を、既に定評のある、前例に当たる知識や方法との、暗記に よる一体化を行うことで果たす。しきたり・前例に関する知識の暗記量で人間の価値を推し量ろうとする(心の中での前例蓄積量や質によって人間の価値が決ま る)。人間関係を、前例を沢山蓄積している先輩と、蓄積量が少ない後輩との差別によって把握する、年功序列が常識化する。年功序列で上位の人間が、下位の人間を、ただそれだけの理由で支配する、先輩後輩関係を重視しようとする。これは、前例指向という言葉でまとめられる。

今までいたところから絶えず動き回ろうとする状況下では、個人は、新境地(新分野)への移動・拡散性にあふれており(冒険したがる、前人未踏のことに挑戦 したがる)、行動の基準を、従来にない新規の独創的なアイデアに求める。しきたりや前例の暗記よりも、新たな知識の創造や、現状の変革を重んじる。こうし た行動様式は、独創指向という言葉でまとめられる。


上記のうち、静的・定着・前例指向の行動様式は、ウェットな感覚を与える液体分子群(水など)において、コップなど、ふたのない容器に入れておいても、い つまでもその中にいて、外に拡散していくことがない(蒸発は、気体分子になることで初めて可能になる)現象と、同様であると考えられ、ウェットな行動様式 と言える。

一方、動的・非定着・独創指向の行動様式は、ドライな感覚を与える気体分子群(空気など)において、いったん容器に閉じ込めておいた状態でふたを取ると、 すぐに外に拡散してそこからいなくなってしまう現象と同様であると考えられ、ドライな行動様式と言える。



上記の今回抽出した詳細な内容から、性格、行動様式などにおけるドライ・ウェットさの概念が、集団主義・個人主義、自由主義・規制主義、プライバシー尊重 の有無など、これまで個別にバラバラに議論されてきた、社会学、心理学や政治学上の様々な概念をまとめ、関連づける上位概念として、今後より有望視、重要視されるようになることが予想される。

例えば、行動様式や文化の分類について、上位概念としてのドライ・ウェットさを導入することで、従来は別々に捉えられてきた集団主義-個人主義、規制主義-自由主義の概念が互いに「集団主義と規制主義とは、どちらもウェットである」、「個人主義と自由主義とは、どちらもドライである」のようにリンク付けて捉えられるようになる。そして、このことから、例えば、「個人主義と自由主義とは(両方ともドライであり)互いに関連し合って同時に起こる、見られる」、「アメリカのような個人主義の国(人)は、同時に自由主義の国(人)である」ということが言えるようになる。

つまり、今回抽出した、集団主義-個人主義、規制主義-自由主義といった、様々なドライ・ウェットな性格・行動様式は、互いに独立・バラバラに発生するのではなく、ドライに属するもの同士(個人主義、自由主義、プライバシー尊重・・・)、ウェットに属するもの同士(集団主義、規制主義、反プライバシー・・・)、互いに関連し合って同時並行的に発生する、観察されるものであると言える。


5.抽出した行動様式のドライ・ウェットさについての確認

上記の抽出した行動様式が本当にドライ・ウェットと感じられるかどうかについて、個別の行動様式項目毎に「この行動様式は、ウェット・ドライのどち らに感じられますか?」と尋ねるweb質問紙調査を1999年5~7月にかけて、1質問項目当たり約200名の回答者という規模で行い、当方の上記の 考え方がほぼ正しいことを確認した。
 

web質問紙調査(確認用)手順へのリンクです。

web質問紙調査(確認用)結果数値へのリンクです。
 



6.まとめ


 上記結果から、
(1)ドライな行動様式の人は、対人関係において、運動・活動性が高く、相手へと近接しようとする指向が弱い人である
(2)ウェットな行動様式の人は、対人関係において、運動・活動性が低く、相手へと近接しようとする指向が強い人である
とまとめられる。

 分かりやすく言い換えれば、対人関係で、互いに他者とベタベタくっつき合って動かないのが好きな人がウェットで、他者とバラバラに離れて活発に動き回る のが好きな人がドライということになる。要約すれば、「相互離散・移動=ドライ、相互近接・定着=ウェット」ということになる。

 人間が、対人関係の中で他者に与えるドライ・ウェットな感覚は、運動エネルギーの大小や、引力・粘着力(分子間力相当)の強弱という点で、それぞれ気体・液体分子や、乾いた・湿った物体一般が人間にもたらす感覚(ドライ・ウェット)と、本質的に同じ起源を持つ、と考えられる。


引用文献

Asch,S.E. (1946) Forming impressions of personality : Journal of Abnormal and Social Psychology, 41,258-290
松山幸雄(1978) 「勉縮」のすすめ 朝日新聞社
西尾幹二(1969) ヨーロッパの個人主義 講談社
杉本良夫,ロス・マオア(1982) 日本人は「日本的」か-特殊論を超え多元的分析へ- 東洋経済新報社



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