組織の「最適」湿度に関する検討
-ドライ・ウェットな組織の長所・短所、および組織湿度の調節・矯正について-


(c)2002.10 大塚いわお


1.はじめに

ここでは、ドライ・ウェットな性格・態度に関する個人レベルの知見を、組織レベルに応用する可能性の大きさや、組織風土の改善に役立てるために解決すべき課題について述べる。

社会においては、ドライ過ぎ、あるいはウェット過ぎて機能不全、病的状態に陥った組織が沢山あると考えられる。そうした組織を対象とした「組織湿度」のカウンセリング、コンサルティングを行う体制を整えることが必要である。
ドライ過ぎ、あるいはウェット過ぎる組織に対して、問題解決のための「湿度調節・矯正」援助を行うのが、カウンセリングの目的となる。
組織の雰囲気を直すことで、業績や、居心地の快適さの向上を目指す。
対象組織は、役所、企業、学校、家庭など多岐にわたる。



2.ドライ・ウェットな組織の特徴比較

ここでは、ドライ・ウェットそれぞれの組織の持つ特徴を、長所と短所に分けて比較することで、業績、成員満足度向上の点で望ましい(あるいは逆に問題のある)組織のドライ・ウェットさとはどのようなものかについて考察する。

2.1ウェットな組織

ウェットな組織の長所は、

[相互依存・扶助指向]
ウェットな組織は、人間的な温もり、触れ合いに溢れている。共同体的、家族的であり、少なくとも最初は居心地がよい。ずっと長くいたいと思わせる。成員は居心地のよい状態を維持するために、積極的に働こうとする。
組織の中では、成員は、周囲の同僚と協力し、自分の利益は二の次にして、互いに相手を思いやり、助け合おうとする(相互扶助の精神に溢れている)。成員の誰かが調子が悪くなったときは、周囲が積極的に無償でそれをカヴァーする行動をしてくれるので、いざというときも安心であり、成員は業務を進める上での強力な心の支えを得ることができる。失敗したときの責任も共同で取ってもらえるので気が楽である。

[関係指向]
組織との強力な一体感が醸成され、成員は、自分の属している組織のために、私利私欲に囚われず、一生懸命献身しようとする。
成員は、組織と一心同体である。周囲の同僚と運命共同体を形成している。組織の成功が成員自身の成功でもある。成功は、周囲の同僚と分かち合い、誰の成果だということを気にしない(自分の成果だということにこだわらない)。
組織と一体化することで、成員各員の自我が、組織全体のサイズまで拡大し、気持ち的に強大になったように感じ、全能感を持って、積極的にパワフルに業務に取り組むことができる。

[同調・同期指向]
成員相互の一体感が強く、互いが心理的に近い位置を共有している。そのため、意見が合いやすく、成員相互の摩擦が少なく、快適に業務を進められる。相互の一体感を保持するために、成員は、周囲と同じ行動を好んで取り、同じ横並びの状態でいようとする。
成員は、互いを同期を取る横並び関係としてライバル視しない(競争相手と見ない、昇進も仲良く同期を取って行われるなど)ので、周囲に対して安心して気を許すことができ、業務に一心に打ち込むことができる。
(昇進や待遇などでの)取るに足らない小さな格差の発生でも、成員にとっては一体感の喪失につながる。成員は遅れることで失われた一体感を取り戻すために、必死で努力して追いつこうとし、それが、成員相互の間に、同調・横並び状態の回復を目的とする激しい競争(同調競争)を生み出し、組織の活力につながる。


一方、ウェットな組織の短所は、

[集団主義]
集団の利益が、個人のそれよりも優先されるため、成員は、組織に対して自己犠牲を一方的に強いられる。

[密集指向]
成員同士、互いの心理的距離が近く、一カ所に密集しているため、成員同士の心理的隙間がなく、風通しが悪く、息苦しい。人間関係が濃厚すぎる。

[閉鎖指向]
組織が外に向かって閉じているため、外から新鮮な風(人材)が入ってきにくい。考えが内向きになり、視野が狭くなりやすい。組織外から光が差し込まないため、組織の雰囲気が暗い。

[同調指向]
成員同士が、互いに同じレベルにいる状態を維持するために、周囲から外れて目立った業績を挙げようとする(あるいは挙げた)者の足を引っ張り合い、個人的に成果を出そうとする意欲を低下させる。「出る杭は打たれる。」
互いが温もりや一体感維持のために同調行動を取っているうちに考え方が均質化し、いつしか異質な有能者を排除するようになる。

[規制主義]
成員同士が、一体感維持のために皆一緒の行動を取る必要があり、行動を揃えるための規律を生み出すために、互いの行動を規制・束縛し合うので、成員にとっては行動の自由が不足し、自由さが羨望の的になる。

[関係指向]
心理的に良好な対人関係の維持に大変に気を遣い、ストレスがたまりやすい。

[反プライバシー]
成員間にプライバシーが欠如している。絶えず各成員についての私的な生活や性癖に関する噂話が組織中を流れまくり、打ち消すのに一苦労し、業績向上以外の余計なことにエネルギーを使ってしまう。

[定着指向]
成員が一カ所に定着して動かなくなる(いつまでも同じ相手とばかり業務をこなす)ことで、前例やしきたりを守るのに汲々として場の雰囲気が停滞しがちである。倦怠感が場を支配しがちである。新しいことにチャレンジしようとする精神に欠け、現状維持的思考が強くなり過ぎ、環境の変化についていけなくなる。
組織に入ってからの所属期間が長いほど、身につけた組織の前例・しきたりが増えて発言力が強くなるため、「無能な長老」が跋扈しやすい。最初から組織にい続ける者をより尊重する純血意識が強くなり過ぎるため、外部の逸材を手に入れる機会を逃し、業績低迷に結びつく。
組織に長くい続けるために、各成員の細かな欠点まで全部分かるようになってしまい、不快感の原因となる。


2.2 ドライな組織

ドライな組織の長所は、

[個人主義]
個人ベースの意志決定が尊重されるため、個人で独自の組織生産性向上のアイデアを持っている場合には、それを積極的に生かすことができる。
一つの組織に無制限・無限定の忠誠を誓う必要がないため、組織の不必要な犠牲にならないで済む。

[広域分散指向]
個人と個人の間が一定以上離れており、成員間に心理的に十分隙間(空き)があり、風通しがよい。働いていて爽快な雰囲気に浸れる。


[非関係・縁故指向]
自分の必要とする人材(あるいは自分を売り込みたい相手)に、縁故をいちいちたどることなしに直接会って話をつけることができ、機動性に優れた人材登用ができる。

[自由主義]
成員間の紐帯・結合が強すぎないため、各成員が周囲と独立して自由に動き回ることができる。束縛や規制があまりなく、業務上の意思決定の自由を謳歌できるため、各人が組織にとって望ましいと考える施策をより実行しやすい。各成員が自分の業務上の成果を周囲に対して自由にアピールできる。
組織目標達成に必要な、目的の相手へとダイレクトに接触できるため、組織内の成員間の情報の流れがスムーズになり、スピードアップする。

[非同調指向]
人と違ったことをしても非難されるどころか、はっきりした個性があるとして歓迎されるため、他者とは異なる独自の道を歩むことができ、その分、出る成果も、他者の真似のできない強力なアピール度を備えた、競争力のあるものとなる。

[プライバシーの尊重]
他の成員が、私的領域への探り・噂話などの不必要な介入をしてこないので、快適なプライバシーが保てる。プライバシーの確保に余計な神経を使わないで済む分、本来の業務により集中できる。

[合理指向]
周囲への過剰な対人配慮をしなくて済むため、周囲成員による無用な介入が抑えられ、個人として合理的な判断ができる。

[開放指向]
組織が外に向かって開かれており、外部の有能な人材が入ってきやすい。外光が直接組織内に差し込むため、組織の雰囲気が明るく、肯定的で望ましいものとなる。

[動的指向]
成員がよく動き回る分、組織としての動きが素早く、臨機応変になる。そのため、より外部環境の変化に適応した行動を即座に取ることができるようになる。組織としての機動性が向上する。

[独創指向]
自由な発想で、組織の縛りや前例に囚われず新しい未踏の分野へと進出することができるため、今までにない独創的な研究・開発成果を出せるようになる。


ドライな組織の短所は、

[個人主義]
各自が自分の利益だけを考えているため、例え、組織全体や周囲の成員にとって有益なことでも、自分にとって利益にならないことはそのままではやろうとしない。そのため、成員同士の自発的な、契約条項を超えた協力関係が生まれにくい。他人の利益になることをする際にも、1)自分のアウトプットが他人にとって利益がないと、他人が自分の出すサービスを利用しないため、自分が儲からなくなるので、それではまずいと思ったり、2)よいことをすることで死後の天国入りなどの見返り(自分の利益)が得られることを想定したりすることで、初めて他人に利益のあることをしようとする気が起きる。

[自立指向]
行き過ぎた実力主義、能力主義のため、各自が、自分の能力発揮・成果のことだけを考えており、他人のことは蹴落としてもよいと考え、人助けを嫌う傾向がある。相互扶助の度合いが弱いため、共同体的、家族的な雰囲気に欠けており、組織の雰囲気が、冷たく、クールなものになってしまう。自分のことは自分で解決しないといけないため、周囲にあまり頼れない(頼ると、成果をよこせなどと公然と見返りを要求される)。自分で決めたことについて、失敗した場合、責任が重くのしかかる。

[非同調指向、プライバシーの尊重]
各成員が周囲とは無関係にバラバラに動くため、成員同士の一体感に欠ける。互いの意見が違うことが前提とした行動を取り、対人関係がそのままではギスギスしやすい(反対や訴訟が起きやすい)。そのため、人間関係は、互いに深入りせず、あっさり、淡々としたものに止まる。

[自由主義]
周囲の成員が皆自由競争の対象となるライバルで、いつ追い抜かれるか、立場が逆転するか分からないため、気が抜けず、ストレスがたまる。

[非定着指向]
成員が組織に定着せず積極的に外に飛び出していくため、出入りが激しい。成員の組織への忠誠は、あくまで短期的な契約に基づくものであり、契約が終われば、その瞬間から赤の他人に戻ってしまう。長期間無条件に私利私欲をなげうって組織のために尽くしてくれる成員の確保が難しい。



2.3 ドライな特徴とウェットな特徴の不両立

上記で挙げた、ドライな組織の特徴のセット(個人主義、自由主義、合理指向...)と、ウェットな組織の特徴(集団主義、規制主義、非合理指向....)のセットは、相反するものであり、両方を同時に強く兼ね備えた組織(例えば、団体行動を重んじる=集団主義の、かつ自由な雰囲気に溢れた=自由主義の組織)を作るのは困難と考えられる。

例えば、家族的温もりに溢れたウェットな組織は、雰囲気が停滞しがちであり、風通しが悪い。一方、開放的で風通しよく、動きのよい、フットワークの軽いドライな組織は、えてして対人関係が冷たくクールであり、中に入っていて寂しさや疎外感を感じる場合が多い。

風通しのよい明るい組織と、人間的温かみに満ちた組織というのは、組織としては両方とも理想的であり、両方追求しがちであるが、ドライ・ウェットさの観点からは、この2つは、互いに矛盾し、両立しない。

適度に温かく、かつ風通しのよい、というようにドライ・ウェット両者のバランスがほどよい時に、組織として最高の業績を上げることができるのではあるまいか?


3.組織の最適湿度


上記より、組織は、ドライ過ぎても、ウェット過ぎても、業績が上がらなかったり、中にいて不快であると考えられる。

組織の成員にとって、ドライ過ぎず、ウェット過ぎず、というちょうどよい湿度が存在するはずである。

組織の最適湿度は、どの辺りにあるのであろうか?それが分かれば、組織の湿度を(除湿・加湿エアコン同様)最適な状態にコントロールすることで、組織の生産性や成員満足度向上に大きく寄与することができる。

この利点を実証するために、実地調査による検証が必要である。
検証手順は、以下のようになると考えられる。
(1)組織の湿度を測定する心理尺度を開発し、様々な組織の成員に回答してもらう。
(2)回答対象となる組織毎に、生産性(業績)、居心地のよさの度合いを、別途アンケートなどで調査し分類する。
(3)生産性の良好な組織とそうでない組織、居心地のよい快適な組織とそうでない組織とで、組織の湿度がどのように違うかを調べる。

仮説としては、例えば、以下のようなことが考えられる。
(1)ドライ~ウェットの中間地点に最も望ましい業績・居心地の状態が一つ来る。
(2)ある程度ドライな地点と、ウェットな地点それぞれに、最も望ましい業績・居心地の状態が合計2つ来る。
(3)上記(1)と(2)が複合して現れる。
(4)組織の業績、居心地のよさは、ドライ・ウェットさとは無関係である。

上記の仮説を検証して、最適湿度が判明したら、次に、組織の湿度をコントロール、調節するための効果的な方法について、新たに開発する必要がある。

有効な方法としては、各組織を担当するカウンセラー(例えば企業であれば産業カウンセラー)を置き、彼らの対人関係調整のノウハウを、対象組織成員間における対人関係上の湿度コントロールに生かしてもらう、といったことが考えられる。この過程で、組織を対象とする、現状把握と、組織を望ましい湿度へと変化させるためのカウンセリング、コンサルティングが必要となる。組織カウンセラーは、組織がドライ過ぎるときは、ウェットな行動様式を組織に注入し、組織がウェット過ぎるときは、その逆を行うようにすればよい。

どのような行動様式がドライ・ウェットかは、既に筆者が一通り知見を当サイトに集約しているので、それを参照すればよい。

問題は、効果的な組織の湿度調節プロセスをどのように決定するかである。例えば、以下のようなプロセスが考えられる。

1)カウンセラーたちを中心とした組織湿度調整委員会のようなものを、組織全体を見通すことが可能な形で編成し、彼らに、組織湿度の調節・矯正の全権を付与する。

2)カウンセラーたちは、組織の意思決定で大きな役割を果たしてきた組織のキーマン(これは、必ずしも地位の高い者とは限らない。ノンキャリアの者でも、彼らにしかできない特殊技能のおかげで、組織に大きな影響力を振るう場合がある)を、組織内の聞き込みや現場観察などによって特定した上で、彼らの選好する対人関係上の湿度を、対面調査などで測定する。

3)組織のキーマンたちの好む対人関係上の湿度に関するデータを集計し、そこから、現在の組織の湿度を割り出す。
4)割り出した組織の湿度が、組織目標、業績や成員満足度の観点から見て、適切かどうか判定する。

5)組織の湿度が不適切であると判断された場合は、組織の目標や訓示に照らし合わせて、最も近くにある、業績・成員満足度の高い組織湿度を探し、その湿度へと元の組織の湿度を移行させることを決定する。

6)湿度移行に当たっては、a)可能な範囲内で組織の従来のキーマンたちの選好湿度の矯正を行うと共に、b)組織内で従来能力がありながら、主流の組織湿度に合わず冷遇されてきた人材を、抜き打ちの心理テストや面接などで探し出し、新たにキーマンの位置に就けるように教育を行うという作業を行う。

このような手順を全て実行するには、数カ月といった短い期間では不可能であり、(製品生産体制のリストラのように)1~数年かけて組織成員の心理面でのリストラをじっくりと行うことで、初めて初期の成果を達成することができる、と予想される。

また、こうした組織湿度の矯正に当たっては、心理カウンセラー、それも個人ではなく、組織をターゲットとするカウンセラーが、従来にない形で、重要な任務を担うことになる。そのため、従来の臨床心理の教育内容を、個人中心から組織~社会中心へと転換することが必要である。

なお、実際には、組織において、自分が適当と思う対人関係上の湿度は、一人一人の成員毎に異なると考えられる。組織の中は、ドライ・ウェットさの面でもともと均質ではなく、成員の中にも、ドライな対人関係を好む成員(ドライな分子)と、ウェットさを好む成員(ウェットな分子)が存在する。この場合、成員のドライ・ウェットさを好む度合いは、生得的・遺伝的に決まる面もあれば、生育環境・家庭のあり方によっても変わってくると言える(↓注)。組織がドライ・ウェットさで均一ということはあまり考えられず、実際には、組織内のドライな分子とウェットな分子との間に、常に綱引き、勢力争いが起きていると想定される。


(注)ドライ・ウェットさの好みが生得的に決まるという側面については、例えば、日本人など東アジアの人々が、稲作農耕の環境下で、遺伝的にウェットさを好むように進化してきたと言えるか、とか、ドライさを好む遺伝子がもしあるとすればどのようなものか、などについて、今後明らかにする必要がある。
また、ドライ・ウェットさの好みが後天的な生育環境に決まるという側面については、例えば、ドライな雰囲気の家庭に育った子供はどの程度ドライさを好むか、とか、育った家庭の雰囲気がウェット過ぎると、その雰囲気から逃れるため、かえってドライな対人関係を好むようになるか、などについて、今後研究が必要である。


ただし、組織の上司の性格や、成員の数がドライ・ウェットのどちらかに偏っている場合などは、一方が他方を圧倒し、少数派の方は、表面的には多数派の対人的な湿度に従いながら、心理的なストレスをため込むことになり、それが、当人の心理面での障害となって立ち現れることが多いと考えられる。また、組織の湿度に合わない有能な人材の組織外流出につながることもある(ウェットな日本の会社・役所組織を嫌って欧米に研究の場を移すノーベル賞受賞者の例など)。

組織の湿度コントロールに当たっては、上記の点を考慮して、例えば、多数の成員にとって快適となる組織湿度を優先して決定しつつ、ドライ・ウェットさの面での少数派への配慮(多数派からの隔離政策を取るなど)も怠らない、といった考慮が必要となる。


(c)2002 大塚いわお

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