[ドライ・ウェット研究の背景]

この研究は、10数年前、筆者が、東京都内の文学部を持つ、とある大学に進学したところから始まった。

筆者は、進学直後、大学の雰囲気になじめない自分に気づいた。

なぜ、なじめないか、考えてみたところ、周囲の人々(学生、教授)の社会的振る舞いに納得が行かないことが原因だと思われた。

具体的には、先輩後輩(年功序列)関係のきつさ、外国の著名な学者の後ろばかり追い回して、自分の頭で考えようとしない権威主義・前例主義、閉鎖的な徒党を組んで、内輪でやたらと盛り上がろうとする周囲の同年代の学生の態度 に不快感を抱いたのが、なじめない理由だった。

筆者は、こうした不快感の源が、日本人の社会的性格ないし、国民性と関係あるに違いないと考え、国民性に興味を持った。

そこで、日本と欧米社会との比較論を、文庫本から専門書まで、玉石混淆で手当たり次第読んだ。結果として、日本人の国民性について、大体の勘がつかめてきたように思った。

しかし、読んでいるだけで、大学の年限は終わってしまい(単位は何とか取った)、出来損ないのいい加減な卒論を書いて卒業した。 卒論で何を書いたかも、今ではよく覚えていない。

筆者は、コンピュータ関連の会社に就職したのちも、引き続き日本人の国民性、欧米との文化比較に興味があり、文献を読みつづけた。

いろいろな文献に出て来た日本人の国民性を、いくつかの特徴に、試しにまとめてみた。それは、集団主義、同調・他律指向、閉鎖性....などとまとめられた。
筆者は、これら、たくさん出て来た、多様な特徴を、一言でまとめて言い表せないかと考えた。

そのとき、日本と欧米との文化比較論の中に、(例えば、松山幸雄「勉縮のすすめ」朝日新聞社1978 などに、)アメリカ=ドライと、日本=情緒纏綿 といった対比が載っていたのを思い出し、日本=ウェット、欧米=ドライ、というそれぞれ一言でまとめられそうだな、と何となく思った。そして、何とかこの線で、まとめてみようと決めることにした。

しかし、今度は、なぜ、集団主義や、同調指向、閉鎖性などが、ウェットと言えるのか、を導き出すのに、手がかりがなく、困ってしまった。

感覚のドライ/ウェットさの違いを人間に与える原因となるのは、そもそもどういう物質?なのかを、知る必要があると思った。これは、すぐ、ドライ=空気、ウェット=水、雨、涙と分かった。しかし、これだけでは、まだ手がかりとしては十分でない。

高校の時読んだのと同じ、物理・化学の参考書(「チャート式 物理・化学」 数研出版)を、もう一度読んでみた。物質は、大きく分けて、固体・液体・気体の3相に分かれるとあった。

そこで、水=液体=ウェット、空気=気体=ドライと気がついた。

さらに、この「チャート式」参考書の、液体・気体の分子運動を表した図(この図は、今思いなおしてみても、よくできていた)を見て、これらの運動のパターンは、今まで散々考えて来た何かのパターンに似ていると直感した。

液体分子運動の図における、液体分子の振る舞いが、集団主義的、同調指向的、閉鎖指向的....と見えた。
気体分子運動の図における、気体分子の振る舞いが、個人主義的、「一人我が道を歩む」的、開放指向的....と見えた。

集団主義的、同調/他律指向、閉鎖指向的な、日本人の国民性は、液体分子運動そっくりだ、と感じられた。液体分子的な振る舞いをするから、ウェットと感じられたのだと確信した。
ひょっとすると、人間も分子も、同じパターンで行動・運動すれば、共通に、ウェット/ドライと感じられるのかな、とも思った。

液体分子と気体分子とを分けるのが、分子間力の大小であることから、人間の行動にも、液体分子間に働く、分子間力相当の「相互間引力」とでもいうべきものが働いていると、ウェットと感じられるのか、と考えた。

この仮説は、大胆過ぎて、大きく外しているかも知れないと、心配になった。
そこで、合っているかどうかを実証するために、アンケート調査をしたいと思った。

しかし、アンケート調査をする環境が全く整っていなかった。勤務先は社会学/心理学の研究調査とは無関係の業務だったし、交友関係が広いわけでもなかった。
勤務先の上司に試しに仮説を話してみたら、全然信用してもらえず、「そんなこと考えているひまがあったら、会社のために仕事しなさい」と言われて落ち込んだ。

数年すぎて、インターネットの時代がやってきた。

たまたま勤務先の会社で、インターネットに関連したCGIという技術に関する仕事が回って来た。このCGI技術は、
(1)Webページ表示を、プログラムで組んで、動的に変えられる、
(2)Webページから、入力されたデータを取り込んで、自由に分析したりできる、
というものであった。業務を通じて、強制的にHTMLタグ文法や、Perl言語などを覚えさせられた。

筆者は、ほどなく、このCGIに関する技術や知識を使えば、インターネット上で、アンケート調査が簡単にできると、考えついた。

筆者は、すぐに、CGIを使えるインターネット・プロバイダと契約して、自前のホームページを作れる環境を手に入れた。

そこで、個人主義/集団主義、....といった行動様式に対応すると思われる内容の文章を、100個ほど対にして、どちらがよりドライと感じられますか、と聞いて、回答させるWebページをホームページとして作った。そして、インターネットのNetNewsのいくつかのNewsgroup上で回答者を募集して、70名ほどから回答を得た。

早速結果を分析したところ、大体こちらが描いていた通りの仮説に、ぴったり合った感じの分析結果が出た。当初はこれで満足していたが、社会心理学関連の実験文献を読んでいるうち、回答者数が70名では少ない、性別が男性に偏り過ぎている、と、不足に感じるようになった。

そこで、ちょっとした紆余曲折を経て、ホームページに、上記結果に基づくドライ・ウェットの性格を診断する心理テストを作り、そのテストをやりたいと集まってくる人たちに対して、「心理テストの前に、ちょっとこのアンケート調査に協力して下さい」という感じで回答してもらう形で、200項目と、よりパワーアップした項目内容のアンケート調査を行った。結果として、回答者は、項目毎に約200人、性別は男女半々と、こちらの理想とした質量が得られた。

分析した結果、調査項目全体の7割(140項目)以上について、仮説に合った回答が得られた。当初、大胆すぎるように思われた、「人間の行動は、液体分子間に働く、分子間力相当の「相互間引力」とでもいうべきものが働いていると、ウェットと感じられる」という仮説は、何とか合っているようであった。この結果をまとめたのが、本Web siteである。



(c)2000 大塚いわお

ホームページに戻る