温情(温かい心を持ったwarm-hearted)インタフェース・デザイン

 2000.05   大塚 いわお



[目次]

1.はじめに(冷血cold-heartedインタフェース)
2.温情warm-heartedインタフェースとは

3.「温かい」人間関係とは?
4.ディジタル・フレンド(Digital Friend)

5.その他考慮した事項 -「ソーシャル・スキル」など-

6.まとめ(温情インタフェースの条件)

7.設計者に必要な心構え

8.既存事例の分析

9.Q&A

10.おわりに

参考文献

[付録]「温情」インタフェース・デザイン原則項目一覧
1 好意・接近
2 愛着
3 援助・ケア
4 リラックス・安心
5 受容・共感
6 豊かな感情



1.はじめに(冷血cold-heartedインタフェース)

従来、コンピュータの使いやすさを向上させるため、さまざまなユーザインタフェースが生み出され、それらを効果的に導き出すための、デザイン原則やガイドラインが、数多く提案されてきた(例えば、[Nielsen 1993]におけるヒューリスティック・ガイドラインや、[Shneiderman 1992]における8つの黄金律など)。

従来のコンピュータのユーザインタフェース・デザイン原則は、コンピュータ操作を何らかの目標達成の手段・道具として捉える視点に立ち、(操作効率、容易さなど)コンピュータを用いた、さまざまな利益計上や効率追求などの目標・課題達成しやすさ、すなわち生産性の向上に主眼を置いていた。

しかし、こうした従来のガイドラインでは、コンピュータと利用者との間は、ビジネスライクな感じのする、冷たくドライなインタフェースで結ばれることになりがちである。

こうしたインタフェースは、コンピュータと利用者との間に温かい血潮が通い合わない、「冷血(cold-hearted)」インタフェースとでも呼ぶことができる。

従来のコ,ンピュータの冷たさは、大きく分けて、「道具的冷たさ」と、「機械的冷たさ」の2通りに分類することができる。そして、それぞれの冷たさを体現したインタフェースとして、「道具的」インタフェースと、「機械的」インタフェースが考えられる。

「道具的」インタフェースは、コンピュータを、何かをするための手段・道具としてしか見ようとしない視点で作られたインタフェースである。このインタフェースは、利用者自身が、仕事で最大限の成果をあげるために、コンピュータを、自分の部下・手足として、可能な限り、思いのままにこき使うことを前提としたものである。そこには、利用者とコンピュータの間を、一方的な支配-従属(隷属)関係で結ぼうという考え方が見て取れる。

「機械的」インタフェースは、例えば、「機械的応答」という言い方があるように、全てを、0か1か、ないし、YesかNoかのlogicに還元することを通してしか捉えることのできない、従来のコンピュータのハードウェアの限界に基づくインタフェースのあり方である。その特徴としては、融通が効かない(杓子定規である)、感情がない(抑揚がない)、応答が単調である(ワンパターン、同じ動作を繰り返す)、感触が固く冷たい(金属的である、ソフトさに欠ける)、といった点があげられる。

インタフェースの「機械的」な冷たさは、コンピュータの使い方について、道具的・ビジネスライクな考え方が主流の状態では、それほど害毒を及ぼさないとして、許容されてきた。

「冷血的」インタフェースは、[Toennies,F.,1887]の用語を借りて、「ゲゼルシャフト(gesellschaft)」・インタフェースとも呼ぶことができる。Toenniesによれば、ゲゼルシャフトとは、諸個人が互いに自己の目的を達成すするために形成した社会関係のことを指し、その関係は、人工的機械的であり、そこでの人間同士の結合は、人格のごく一部のみをもってする結合である。そこでは、人々は利害や打算に従って行動し、返礼や反対給付が必要となる。また、このゲゼルシャフト的社会関係においては、人々は、表面的にはいかに親密に振る舞うとしても、なお不断の緊張関係におかれ、あらゆる結合にもかかわらず本質的には分離している、とされる。

従来のデザイン原則やガイドラインを生み出してきた、認知工学的・エルゴノミクス的なアプローチでは、人間の知的情報処理能力向上の側面や、人体への生理的適合の側面に重点を置くあまり、コンピュータと人間との情緒的な結びつきといった側面に関心が向かないため、知的・工学的に洗練されてはいるが、冷たくてドライな、上に述べたところの、「冷血」インタフェースを生成しがちなのではないか?
 
 



2.温情warm-heartedインタフェースとは

家庭や、地域などのコミュニティのような、所属する人間同士が互いに温もりを求め合う社会関係のもとでは、冷たく、ドライなままのインタフェースは、そのままでは明らかに異質である。そこでは、コンピュータのインタフェースを、ある程度温かく、人間的でウェットにする必要がある。

また、企業オフィスのような、本来、目標達成的・打算的な組織の中で、利益を生み出すために使う場合でも、コンピュータのインタフェースは温かい方が、使っていてリラックスしやすいし、心が和んで、精神衛生上好ましいと考えられる。あるいは、コンピュータのインタフェースが温かいと、利用者に、心理的な余裕を生み出し、仕事上のアイデアが出やすくなったり、仕事がよりはかどりやすくなる効果を持つかも知れない。

こうしたインタフェースは、「温情(warm-hearted)」インタフェースと呼べる。
 

社会心理学の分野では、「冷たい-温かい」の対人感覚軸について、従来から、その重要性が指摘されて来た。例えば、 〔Asch 1946〕では、人の性格を表す特徴の中に、ある一言が入ることによって、その人物の全体的印象が大きく変わること、具体的には、「温かい」もしくは「冷たい」という形容詞を入れ替えただけで、その人物の最終的な全体印象に大きな違いが生れることが、指摘されている。この場合、人物の全体印象を決定づけるのに、「冷たい-温かい」の対人感覚軸が、「中心的特性」として、大きな影響力を持っているとされている。

こうした「温かさ-冷たさ」の対人感覚軸は、コンピュータのインタフェースが、利用者に与える印象の面から行っても、非常に重要であると考えられる。コンピュータの利用者に与える全体的な印象が、「温かい」場合と、「冷たい」場合とで、大きく変わる可能性があるからである。コンピュータのインタフェースを、「温かく」することで、利用者に、コンピュータを好ましく感じさせる度合いが大きく増えることになり、インタフェースの質の劇的な向上を見込むことができる。
 

こうした、より温かい、ウェットな(人間的な)インタフェースの特徴は、上記の[Toennies,F.,1887]における用語を再度借りて、「ゲマインシャフト(gemeinschaft)」・インタフェースとでも呼ぶこともできる。Toenniesによれば、ゲマインシャフトとは、人々が、人間の本質そのものによって結合した統一体であり、それ自体が有機的な生命を持つ。そこでは人々は、全人格をもって感情的に互いに融合し、親密な相互の愛情と了解の下に運命を共にする、とされる。また、そこには、(従来「冷血的な」コンピュータが主に使用目的としてきた)交換や売買、契約や規則といった概念の入り込む余地は少ない。

このように、従来の利益追求的・目標達成的な「冷たい」コンピュータ開発のためにデザイン原則やガイドラインを利用する状態から抜け出して、温かい感じのするインタフェースを持つコンピュータを作るためのデザイン原則やガイドラインを新たに作成することが、今後、コンピュータと人間との関係をより好ましいものとしていく上で必要となってくるのではあるまいか?
 

用語を定義すると、「温情」インタフェースとは、コンピュータが利用者と互いに親密で全人格的な一体感を持てるような、人間的で、温かくウェットな感じを与えるインタフェースのことを指す。こうしたインタフェースは、コンピュータやロボットが、将来人間に近い、人間的(human)な振る舞いをする存在になるためには欠かせないと考えられる。また、利用者が、コンピュータに愛着や親しみを持って、大切に、少しでも長く使おうとする気持ちを起こすためにも必要であると考えられる。
 
 



3.「温かい」人間関係とは?

温かい感じを、コンピュータのインタフェースに与えるには、既存の人間同士の関係における、温かさを実現するための、様々な社会関係のあり方や社会的相互作用のための技術(ソーシャル・スキル)を参考にする必要がある。
 

温かさの源泉となる社会関係や活動には、

1a)友人、恋人(恋愛)、家族関係

1b)血縁、地縁~通信で互いにつながれた共同体(コミュニティ)関係

2)看護、保育、福祉、カウンセリングといった、職業活動

3)ボランティア、寄付、募金、歳末助け合いといった、社会活動

があげられる。

これらについて、以下に、詳しく説明する。
 

(1)友人・恋人・家族関係

(1a)友人関係

友人関係の特徴は、[Thibaut,Kelly 1959]によれば、好意の相互性、[Heys 1988]では、相互の引き付合い、自発的相互依存、いっしょにいると楽しいこと、[Wright 1974]では、親密さ、愛情、相互援助、とされている。

また、友人のルールとは、[Argyle,Henderson1985]によれば、自発的援助、相手のプライバシーの尊重、約束を守ること、相互信頼、相手のいないときに代役をする、相手を公の場で非難しない、といったものとされる。

友人関係の親密度の判別には、[中村 1989]によれば、

1)自己開示(自分の趣味や関心事について話す、個人的な問題や悩みについて打ち明ける)
2)相手の評価的行動(何事につけ気をつかう、何かにつけ相手を喜ばそうと努める)
3)自分と友人の近接性行動(会うのに多くの時間を当てる、何かにつけ相手を誘う)
4)相手に対する謝恩感情(負い目を感じる、すまない)
5)関係関与性(友人との関係の持続を望む程度、自分が友人との関係に深くかかわっている程度)

といった項目が説明力を持つとされる。コンピュータのインタフェースをより友情ある(友人関係に近い)ものとするためには、こうした項目で高得点をあげるようにすればよい、と考えられる。

あるいは、友人関係を緊密なものにする条件は何か、緊密性(closeness)はどのようにして表出されるかについては、[Parks & Floyd 1996]が明らかにしている。同性、異性の友人関係における緊密性の定義として頻繁にあげられた要素には、

1)自己開示(互いにどのようなことでも話す)
2)援助とサポート(互いに助け合う、互いにそばにいる)
3)共有された関心と活動(共通の背景、興味関心、嗜好、価値、信念、活動を持つ)
4)関係的表出(緊密性や関係の価値について、表出する)

があったとされる。コンピュータのインタフェースが、こうした条件を満たせば、コンピュータと利用者の間の関係がより緊密なものとなると考えられる。
 

(1b)恋愛関係

恋愛(Romantic Love)関係は、上記の友人関係が、異性間のものだった場合に、より強められた形で出てくるもの、と考えられる。
恋愛関係の特徴は、[Rubin 1970]によれば、(1)親和・依存欲求(一緒にいたいなど)がある、(2)援助傾向(相手が落ち込んでいたら、元気づける)、(3)排他的感情(相手を独占したい)、といった点にあると考えられる。
 

(1c)家族関係

家族関係は、上記の恋愛感情を通過して、結婚した者同士の関係(夫婦関係)、夫婦が子供を作って育てる際に生じる関係(親子関係)、子供同士の関係(兄弟姉妹関係)に分けられる。
夫婦間の心理は、恋愛関係時に比べて、より制度化・固定化されて、安定している。
親子間・子供間の心理は、血のつながりがある点、相互の同一性が高く、自然と打ち解けた、遠慮のいらない関係ができあがる。
 

(2)共同体(血縁、地縁~通信による結びつきによる)

共同体は、社会学では、ゲマインシャフト、コミュニティ(MacIver,R.M.)などと呼ばれてきたものである。
[Toennies 1887]によれば、共同体の中では、人々は、全人格をもって感情的に互いに融合し、親密な相互の愛情と了解の下に運命を共にする、とされる。

こうした相互の親密さ、感情的融合、愛情などが、共同体の心理の特徴といえる。これらの心理が、人間に「温かさ」を感じさせるものになっていると考える。
 

(3)看護・保育・福祉・カウンセリング

看護婦(看護士)、保母(保育士)、ソーシャルワーカー、カウンセラーの役割は、病人や幼児など、弱い、手助けを必要とする利用者に援助の手を差し伸べることにある。
コンピュータ初心者も、手助けを必要とする弱者として捉えることができるので、彼ら初心者に援助の手を差し出す、というコンピュータのインタフェースは、看護・保育などの職業的態度と、共通しているといえる。こうした弱者支援は、弱者に対する温かい思いやりが前提となり、その点で、人に対する温情が存在すると考えられる。
 

(4)社会活動(ボランティア、寄付・募金など)

寄付や援助などの社会活動の根底にあるのは、困っている人を助ける(援助する)することで、人の役に立ちたい、という考え方である。すなわち、自分が他人に助けられた時、人の心の温かさに触れる思いがしたので、その温かな感じを、少しでも多くの人に分け与えたい、などといった、人に対する温情と直結した動機が、そこには含まれると考えられる。
 
 

こうした温かな人間関係をもたらす心理的な背景としては、

(1)心理的近接

他者が、心理的に、自分のすぐ近くにいることを感じられる時、他者の体温を、より身近に「温かく」感じられる。したがって、他者の行動を「温かく」感じる。
心理的な近さは、他者が、自分と共通・同一の考え方を持っていると近く、自分と異質・反対の考え方を持っていると遠く、感じられる。

(2)環境適応=体温維持への貢献

他者の行動が、自分の体温維持=生命維持(生存)に貢献する(役立つ)場合に、他者のことが温かく感じられる。すなわち、他者の行動が、自分の環境適応(環境の中で生き延びること)に役立つ場合、他者について「温かい人だ」という感じが得られる。
他者(例えば親や友人)が、自分と反対の意見を述べても、それが、自分のためを思っての意見だったと理解した場合には、温かく感じられる。

といった点が考えられる。
 

温かな人間関係は、人間がよりよい条件で生存していくために、互いに協力しあって行く上で、その心理的な基盤となるものであり、人間らしいhumanな気持ちを保持する上で、欠かせない。

コンピュータと人間の間においても、温情インタフェースが構築されることによって、人間は、より心理的に安定し、他者に対して、友好的な心理的傾向を強め、ひいては、厳しい自然環境下を生き延びていくために必要な協力(思いやり)行動を、自ら進んで積極的に行うようになると考えられる。従って、温情インタフェースは、人間の生存・増殖の可能性を増大させる行動を取らせる上で、効果があると考えられる。
 
 



4.ディジタル・フレンド(Digital Friend)

「温情」インタフェースを構築する上で、コンピュータ側が利用者に対して、総合的にどのような態度を取るべきかについては、「友人」関係という視点から、まとめることができる。

(1)友人関係-「温情」ある人間関係の代表-

「温情」ある対人関係は、「友人」関係によって代表させることができる。友人関係は、他の、看護、社会奉仕などの、職業・社会活動における、「温かな」人間関係の特徴も、併せ持つと考えられるからである。

言い換えれば、友人関係は、他の(共同体、職業・社会活動といった)さまざまな「温かな」人間関係の基盤をなしており、人間関係の温かさの「共通」部分に当たっている。

このように考えると、コンピュータと人間同士の温かな関係を築くためには、コンピュータが、人間にとって、「ディジタル・フレンド(Digital Friend)」とでも呼ぶべき、親しい友人としての存在になることが、根本面で、必要と言えるのではあるまいか?
 

(2)ペット・野性生物との比較

上記で述べた、「ディジタル・フレンド」を、従来のコンピュータやロボットのインタフェースで取り上げられてきた、ペット・野性生物と比較してみたい。
 

1)ペットとの比較

コンピュータ画面上で活動するディジタルペットとして、 ペットが電子メールを運ぶ「PostPet(SONY)」などが、市場に出回っている。あるいは、ペットロボットとして、「AIBO(SONY)」「たま(OMRON)」などが、人々の注目を集めている。

こうしたディジタルペットは、その存在により、ストレス発散に役立つ、愛着を感じる、心が休まる(落ち着く)点で、ある種の「温かさ」を持っていると、考えられる。

しかし、人間同士の関係と異なり、ペットでは、利用者が主人であり、ペットは、その従属物、愛玩用品などとして、目下・一方的に依存・隷属する関係となる。ペットは、主人を超えてはならない。利用者からは、下位にある存在である。利用者との間に、友だちのような、対等の関係が築けない。

ペットは、利用者が心の満足を得るための手段に過ぎないという点で、道具的な、冷たい側面を併せ持つ。すなわち、ペットは人間にとって都合のよい時だけ利用され、用が終われば、一方的に見捨てられる。そういう点では、人間とペットとの間には、相互の関係において、温かさの通い合いが欠ける可能性を絶えずはらんでいる。

そういう点からは、「温情」インタフェースからは、遠い存在である、と受け取ることもできる。
 

2)野性生物との比較

こうした限界を打破するために、ペットではなく、野生生物である、という設定を持ち出したのが、人工生物「FinFin(富士通)」である。設定を「野生生物」とすることにより、利用者との対等性が保持される。しかし、この野生生物という設定では、生物があまり利用者と親しくなり過ぎると、野性を失って、家畜・ペット化する危険性を常にはらんでいる。そこで、利用者との間に一定以上距離を置く必要が出てくるが、これでは、利用者に対して近い存在になれないし、温かさもあまり伝わらない、という問題点がある。
 

3)「友人」関係の優位性

上記で取り上げた、ペット・野性生物・友人関係間の相違を、整理してまとめたのが以下の表である。
 
近さ 対等さ
ペット ×
野性生物 ×
友人

要約すると、温情インタフェースの組み込み相手として望ましいのは、対等であり、かつ関係を積極的に持てる、互いに近い存在になれる、「友人(ディジタル・フレンド)」ということになる。
 



5.その他考慮した事項 -「ソーシャル・スキル」など-

(1)「温かい」認知との関連

[海保 etal. 1997]では、認知心理学において、従来の人間の知的側面に焦点を当てたアプローチを「冷たい」ものと捉え、それと対比する形で、人間の感情に焦点を当てたアプローチを、「温かい」認知として、捉えられることを明らかにしている。この知見からは、コンピュータが豊かな感情(喜怒哀楽)を備えていることが、インタフェースの温かさにつながる、と考えられる。
 

(2)親和欲求との関連

社会心理学における、人間の持つ、他人と一緒にいたい、という欲求、すなわち「親和欲求」の概念と、心理的温かさとの関連を考えた場合、他者と心理的に近くにいることで、他者の温もりを感じることができる、ということが想定される。このことを、コンピュータのインタフェースに応用して、利用者への好意や心理的な接近を図ることが、心理的な温かさを、コンピュータ利用者に与えることにつながる、といえる。
 

(3)コンサマトリ(cosummatory)インタフェース

[磯崎 1995]によれば、人間同士のコミュニケーションには、
1)道具的(instrumental)コミュニケーション  目標達成の手段としてのコミュニケーション
2)コンサマトリ(consummatory,自己完結的)コミュニケーション 緊張解消などコミュニケーションを行うことそれ自体が目的であるコミュニケーション
とがある、とされる。

この知見を、コンピュータと利用者との間の関係に拡張して考えたとき、
1)コンピュータを、企業の売り上げ増加など目標達成の道具として捉える「冷血」インタフェースは、道具的コミュニケーションに対応する
2)コンピュータが利用者と互いに親密で全人格的な一体感を持つものとして捉える「温情」インタフェースは、コンピュータとの対話それ自身が楽しい、コンピュータとの一体感が持てる、といった、コミュニケーションそのものが目的となるコンサマトリ・コミュニケーションに対応する
といえそうなことが分かる。

人間同士でも、互いに温かい心の通い合った関係では、互いに話をしたり、一緒にいること自体が楽しく、幸せに感じられるものである。利用者が、コンピュータとのコミュニケーションそのものに価値を見いだし、没入するようになることを目標として作られた、コンピュータのインタフェースを、仮に「コンサマトリ・インタフェース」と呼ぶならば、それは、利用者が、コンピュータに対して、温かい感じや印象を受けるように設計された、「温情」インタフェースと、共通性が大きい、と考えられる。
 

(4)人間関係の「対等さ」との関連

人間同士、ないし、コンピュータと利用者との間に、温かな関係が構築されるには、両者の間での、関係・権利上の対等さが必要であると考えられる。互いに、相手を平等に認め合う、権利を尊重し合うといった気持ちがないと、一方が他方を一方的に、利用・搾取する、「冷血的」な関係に陥るからである。

従来のコンピュータは、人間の手足となる道具として、人間に対して一方的に奉仕する存在として、人間より一段低く見られがちであった。しかし、コンピュータのインタフェースを、利用者にとって温かなものとするには、こうした見方を乗り越えて、利用者の側も、コンピュータに対して、相手のことを、自分と対等に思いやる、温かい気持ちで接する、という、「温かさの相互性・対等性」といったものが必要となる。
 

(5)「ソーシャル・スキル」との関連

「温かい」社会関係や活動の根底には、人間的な温もりや共感などを構築・維持しようとする「ソーシャル・スキル」が働いているものと考えることができる。

ソーシャル・スキルとは、[相川 1995]によれば、対人場面において、他者との関係が肯定的となるように、相手に効果的に反応するための対人行動、と定義される。これを、コンピュータと利用者との関係に置き換えた形で再度まとめなおすと、以下のようになる。すなわち、コンピュータが利用者に対して持つべきソーシャル・スキルとは、 コンピュータ使用場面において、コンピュータと利用者との関係が肯定的となるように、コンピュータが利用者に対して効果的に反応するための対人動作、のことを指す。

ソーシャル・スキル自体は、単に、対人関係のうまさ(上手さ)、そつのなさといった、対人関係技術の側面を表す言葉としても用いられるので、対人関係の温かさそのものを、表しているわけではないことに注意する必要がある。

ソーシャル・スキルにおいては、対人関係維持や、他者との共感的・援助的かかわりに関するスキル項目が、温かさに関係ある、と考えられる。
 

「温かさ」に関係のある、具体的なソーシャル・スキル項目は、

1)[菊地、堀毛他 1994]にあげられている100のソーシャル・スキルリスト、
2)[庄司他 1990]の子供の社会的スキルを測定する尺度のうち、共感・援助的かかわりに関する部分、
3)[Buhrnmester et al 1988][和田 1991]における社会的スキル尺度のうち、関係維持に関する部分、
4)[菊地 1988]における、思いやりに関する尺度である、KiSS-18尺度の全部

である。
 



6.まとめ(温情warm heartedインタフェースの条件)

以上の内容を踏まえて、具体的に、どのような内容を持ったインタフェースが、「温情」インタフェースと呼べるのか、について、以下の表にまとめた。
 
1. 好意・接近 利用者に対して、好意を持って接近し、親密な関係を構築しようとする。
2. 愛着 利用者との間に構築した、親密な関係(親近感、一体感)を維持する。
3. 援助・ケア 利用者の幸福が向上するように援助を行う。利用者に対する思いやりや配慮を欠かさない。利用者に親切にする。
4. リラックス・安心 利用者の緊張を解除する。利用者を安心させる。
5. 受容・共感 利用者のことをあるがままに受け入れる(利用者のことを肯定する)。利用者と共感を持つ。
6. 豊かな感情 表情など複雑で豊かな(単調でない)感情を、利用者に対して表出する。

上記の項目(必要条件)を満たしたインタフェースが、利用者に温かさを与える、と考えられる。

これらの項目が「温かさ」を持つ理由は、究極的には、
 
(1)心理的近接 心理的に、利用者の近くにいようとする。
(2)環境適応への貢献 利用者の生存を助けようとする。

の2項目にまとめることができる、と考えられる。
 



7.設計者に必要な心構え

こうした「温情」インタフェースを作り上げるのに必要な、設計者の心構えについて述べる。

「温情」インタフェースを体現したハード・ソフトウェアが出来上がるには、前提として、設計者の心に、「温かさ」がなければならない。すなわち、コンピュータを、使い捨ての道具としてこき使おうとする発想から、脱する必要がある。設計者自身が、コンピュータを、自分自身の親しい友人として、作成後もつきあって行けるように、設計しようとする心構えがあって初めて、利用者の心に「温かさ」を与えるインタフェースを実現できる、と考えられる。
 
 



8.既存事例の分析

以上、述べてきた、「温情」インタフェースが、すでに出ている製品において、どのような形で実現され、どのような効果を上げているかについて、述べる。
 

(1)キャラクタ(エージェント)への応用事例

以上説明した「温情」インタフェースを、コンピュータシステム上で実現するには、従来のコンピュータにおける無機質なマルチウィンドウ+ダイアログボックスオンリーの状態から脱却して、キャラクタ(疑似人格)を登場させて、システムと利用者との距離を縮めるのが効果的であると考えられる。従来、キャラクタ・インタフェースのシステムは、エージェントといった呼び名で存在する。

従来、[間瀬etal 1996][河野etal 1998]などで考えられてきたエージェント(ないしキャラクタ・インタフェース)は、単にシステム利用上のガイド、操作上のヘルプ、利用者の目標達成の手足となるだけの「冷たい」存在であった。最近では、この傾向が改められ、[米村etal 2000]に見られるように、利用者に対して、対人的な魅力を確保しようとする機能を付け加えようとする動きも出始めている。この場合、対人魅力と温かさに関連が生じると考えられる。
 

TVゲームに目を向けると、かなり以前から、利用者に対して、温かな感じを与えるキャラクタが存在する。

例えば、「ときめきメモリアル」(コナミ 1995)は、ゲーム画面上の女子高校生キャラクタと恋愛を行う、シミュレーションゲームである。恋愛関係は、友人関係が異性間の場合にさらに親密なものへと発展した場合を指し、「温かい」関係が基本にある、と考えられる。

このゲームでは、登場するキャラクタは、「こんにちは、○○さん」などとあいさつするだけでなく、「いっしょに帰りませんか?」などと、利用者に好意を持って接近してきたりする。あるいは、「○○さんと会えてうれしいです」「また、(デートに)誘ってくださいね」といったように、利用者と愛着に基づく温かい関係を持とうとする。また、利用者にときめいたり、逆に嫌いになったりするなど、恋愛感情を利用者に対して抱くようになっており、それらの感情を、表情やセリフに、多様な形で出す。そのことで、利用者の気持ちをキャラクタへと、ウェットに引きつける役割を果たしている。

キャラクタのセリフは、全て声優の声によって吹き込まれており、コンピュータ特有の単調さを感じないで済む(豊かな感情を感じる)ようになっている。続編の「ときめきメモリアル2」(コナミ 1999)においては、利用者に対して、自然な声で、「○○さん」と呼びかけるシステムが付加されており、さらに、感情豊かに利用者に接近してくるような感じを抱かせるようになってきている。

こうしたインタフェースは、利用者の、温かな恋愛感情を求める欲求を、あくまで擬似的ではあるが、満足させることで、利用者の心理面を充実させる効果を持っていると言える。
 

(2)ロボットへの応用事例

「温情」インタフェースは、また、人格を持ったロボットへと応用することも可能である。ロボットは、コンピュータ画面上のキャラクタと異なり、物理的な実体を持っている。そして、実際の空間を動き回ることができる。そこで、利用者のもとに、近寄ってきたり(付いてきたり)、一緒に行動したり、物理的に抱き合ったり(なでられたり)といった、利用者との相互作用が可能となる。

ロボットは、一定以上の体温を持って、触ると温かい感触を示すのが望ましい。また、表面は、機械的な冷たさをなるべくなくし、柔らかいスポンジなどで覆うのが好ましいと考えられる。あるいは、介護ロボットでは、利用者に対して、介護の動作をしながら、利用者を思いやる言葉を発するなどすれば、利用者を温かい気持ちに導く上で、より効果的と考えられる。

ペットロボット「たま」(OMRON 1999)においては、ロボットの体表を、温かい毛で包んで、本物の猫同様、利用者に温かい感触を与えるようにしている。また、行動面では、利用者の方に顔を向けるというように、利用者に心理的接近を図る行動を取ったり、利用者と、撫でてもらうなど身体的接触を持つことで、利用者の、親近感や安心感への欲求を満足させるものとなっている。

あるいは、ペットロボット「AIBO」(SONY 1999)においては、利用者がロボットを撫でてやると、喜んで、しっぽを振ったり、目のランプの色を緑のニコニコランプに変える、感情を表す音声を発するなどして、利用者の情緒面に訴える仕様になっている。従って、従来の無機質な反応しか返さないロボットに比べて、利用者と感情的に一体化しうる程度が大きく改善されている、と言え、利用者の心理的な温かさを求める気持ちを、より大きく満足させるものとなっている。
 



9.Q&A

ここでは、温情インタフェースに関して、よく出されると考えられる質問に対して、回答する。
 

1※インタフェースは、冷たくドライな方がよい場合もあるのではないか?

もちろん、コンピュータを用いた仕事の効率的な遂行を第一と考え、付加された温かさを煩わしいと考える利用者は、ビジネス利用者を中心に、かなりいると考えられる。そうした利用者は、既に市場に出回っている従来通りの無機質な冷たいインタフェースのコンピュータを利用すればよい。本文は、温かなインタフェースのコンピュータの必要性を訴えたものであるが、インタフェースの温かさを、全ての利用者に強制しようと主張するものではない。あくまで、インタフェースに温かさを欲する利用者も沢山いるのに、それに従来のコンピュータがあまり応えていないのではないか、という問題点を指摘するものである。
冷たいインタフェースも、それを欲する人たちがいる限りは、必要だと考える。
 

2※「温情」インタフェースの考え方は、コンピュータやロボットのインタフェースを、より人間に近づけることを目指しているのか?

決してそうではない。人間には、温かい人間もいれば、冷たい人間もいる。コンピュータの応答を人間に近い高度なものに近づけても、それだけでは、必ずしも「温かさ」とは結びつかない、と考える。例えば、キャラクタの表情を、3D表示にして、より人間に近づけたとしても、そのキャラクタが、愛着や援助行動を、利用.者に対して示さなければ、インタフェースは温かくならないであろう。
 

3※「温情」インタフェースの実現には、セリフを沢山、キャラクタに言わせる必要が出てきたりすると思うが、利用者にとってはかえって煩わしくならないか?

世の中には、キャラクタにセリフを音声や文字でしゃべってもらうのが好きな人もいれば、逆に、そう思わない人もいる。このあたりは、コンピュータシステムの設定で、セリフの出力方法を、例えば、画面背景上端に1行逐次表示するように変更したりなど、いろいろ調節できるようにすれば、解決すると考える。あるいは、キャラクタに、セリフを言わずに、表情をにっこり微笑ませたり、安らかに居眠りさせたりすることで、利用者に、煩わしいセリフを出力することなく、温かな感じを与えることも可能である、と考える。
 

4※温情インタフェースの採用によって、どういった購買層が、新規に開拓できるか?

温情インタフェースをコンピュータやロボットに採用することで、まず、今まであまりコンピュータに関心を持たなかった女性消費者を、購買層として新規に開拓できると考える。女性の方が、男性に比べて、 赤など暖色系統の色を好むなど、心理的に温かいものをより好むと考えられるからである。あるいは、孤独になりがちな高齢者層も、心の寂しさを和ませてくれるインタフェースのコンピュータを、新たに心のよりどころとして、購入するようになると考えられる。また、コンピュータとのインタラクション自体を楽しみながら使いたい、と考える、主にホビーや教育(エデュテイメント)用途の利用者にも、受け入れられると考えられる。
 

5※その本質が冷たい機械であるコンピュータやロボットに、「温かい」言葉をかけられたところで、ちっともうれしくない人が大半のような気がするが、どうか?

この質問については、コンピュータやロボットの物質的な側面に重きを置くか、行動・動作的な側面に重きを置くかで、答えが分かれると思う。質問をした人は、物質的な側面をもっぱら見ているのだと思うが、実際のところ、キャラクタやペットロボットの利用者・購入者は、それらが何でできているか(どういう金属・プラスチックを使用しているか、画面上の実体のない、バーチャルな情報にとどまるかなど)については、あまり興味がなく、それよりも、それらが実際にどういう行動や動作・しぐさをして、利用者の心を引きつけたり、和ませたりしてくれるかに、興味や期待を抱いている場合が、大半なのではないか?

例え、設計者が人為的に機械的に作り出したキャラクタやロボットであっても、それらが取る動作次第(例えば、声優の声を使って情感あふれるしゃべり方をするなど)では、利用者は、それが人為的な作り物であることを、あまり意識せずに、それらとの自然なコミュニケーションの中に入ることができると思われる。利用者にとっては、キャラクタやロボットのハードウェアやプログラムそのものではなく、それらの内部に組み込まれている、実際に画面上などで動いたりしゃべったりする、それらキャラクタやロボットの行動様式自体が価値あるものであり、心理的にはまる対象となる。それらの行動が利用者の心を温かくしようとするものであれば、利用者は、それらのキャラクタやロボット自身が、自分の心を温かくしようとしてくれたのだと感じて、十分うれしいと思うと考えられる。
 
 
 



10.おわりに

以上、従来のコンピュータシステムが与える感覚についての問題提起、「温情」インタフェース概念などについて説明した。今後、今回提唱したインタフェース概念を、パソコンOS、パーソナル電話機(携帯電話を含む)、インターネットWebSite作成専用機などのインタフェース・デザインに、応用して行くことが考えられる。


[参考文献]

相川 充  1995 ソーシャル・スキル  小川一夫監修 改訂新版 社会心理学用語辞典 北大路書房
Argyle,M. Henderson,M.  1985 The Anatomy of Relationships Penguin Books Harmondworth
Asch,S.E. 1946 Forming impressions of personality : Journal of Abnormal and Social Psychology, 41,258-290
Buhrnmester,D.,Furman,W.,Wittenberg,M.T.,& Reis,H.T. 1988 Five domains of interpersonal competence in peer relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 55,991-1008
Davis,M.H. 1994 Empathy -A Social Psychological Approach- Westview Press (菊地章夫 訳 共感の社会心理学 -人間関係の基礎- 1999 川島書店)
Hays, R.B. 1988 Friendship (In Duck, S. (ed.) Handbook of Personal Relationships Wiley  Chichester
磯崎三喜年 1995 コミュニケーション 小川一夫監修 改訂新版 社会心理学用語辞典 北大路書房
海保博之(編) 1997 「温かい認知」の心理学 金子書房
菊地章夫 1998 また思いやりを科学する 川島書店
菊地章夫、掘毛一也(編) 1994 社会的スキルの心理学 川島書店
河野泉、久寿居大、吉坂主旬、上窪真一 擬人化キャラクタを利用した知的対話システム 1998 情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会報告80-4
間瀬健二、Fels.S、江谷為之、Bruderlin,A.、インタフェース・エージェントに関する基礎検討 1996 情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会報告69-8
諸井克英、中村雅彦、和田実 1999 親しさが伝わるコミュニケーション -出会い・深まり・別れ- 金子書房
中村雅彦 1989 大学生の友人関係の発展過程に関する研究(I)-関係性の初期差異化現象に関する検討 日本グループダイナミクス学会第37回大会発表論文集
Nielsen,J.  1993 Usability Engineering, Academic Press

Parks,M., Floyd,K. 1996 Meanings for closeness and intimacy in friendship. Journal of Social and Personal Relationships, 13,85-107
Rubin,Z. 1970 Measurement of Romantic Love, Journal of Personality and Social Psychology, 16, 265-273
庄司一子、小林正幸、鈴木聡志 1990 子供の社会的スキル-その内容と発達 日本教育心理学会第32回発表論文集 283
Shneiderman,B., 1992 Designing the User Interface, 2nd ed., Addison-Wesley
田村博(編) 1998 ヒューマン・インタフェース オーム社
Thibaut,J.W., Kelley,H.H. 1959 The Social Psychology of Groups. Wiley  New York
Toennies,F., 1887 Gemeinschaft und Gesellschaft, Leipzig(杉之原寿一訳 1957 ゲマインシャフトとゲゼルシャフト 岩波書店)
和田実 1991 対人的有能性に関する研究-ノンバーバルスキル尺度および社会的スキル尺度の作成- 実験社会心理学研究 31 49-59
米村俊一、細谷未生、西山茂 2000 人と擬人化エージェントとの対話設計法に関する検討 電子情報通信学会技術報告 HCS99-70
 


[付録]温情インタフェース・デザイン原則一覧

本文で述べた、温かい人間関係のあり方を参考にして、温かい感じを与えるコンピュータ・インタフェース・デザイン原則を抽出した。

ここで、デザイン原則とは、具体的な仕様を明記するガイドラインよりも、より上位に当たり、ガイドラインを生み出す土壌となる、より抽象的・包括的な内容のルールのことを指すものとする。

デザイン原則抽出に当たっては、上記の、温かさの源泉となる各社会関係や活動のあり方、ないしその基礎にあるソーシャル・スキルから、温かさを与える本質に当たるルールを、ブレインストーミング形式で取り出す、という方法を取った。
 

抽出・作成した原則を、まとめの内容に従って、分類した。

1.好意・接近
2.愛着
3.援助・ケア
4.リラックス・安心
5.受容・共感
6.豊かな感情

こうして抽出した原則項目を、さらに、

1.利用者がシステムを使って処理を開始する時、
2.利用者が処理をしている最中の時、
3.利用者が処理を(切りのよいところでいったん)終了(中断)した時、

の3段階に分けて整理した。
 

以下に、今回抽出・整理した、温情インタフェースを実現するための簡便なデザイン原則項目の一覧を、列挙する。

今回、場面・応答例として取り上げているのは、MS-Windowsなどに代表される、マルチユーザ、据え置き型の、オフィスばかりでなく家庭にも普及しつつあるタイプのコンピュータ・システムである。

表中、「○○さん」というのは、利用者の名前である。
 
 
1. 好意・接近
1-1. 利用者の名前(given name、nickname)を対話中に呼ぶ(名前を呼ぶことで、距離を近く感じるようにする)。[処理中]
〔場面例〕 利用者に対して応答を返すとき全般。
〔応答例〕 「あっ、○○さんですね!」など。
[実例] TVゲーム「ときめきメモリアル2」(1999、コナミ)では、登場する女性キャラクタが、利用者の名前を、人間が発するように、自然な、感情をこめた形で、呼ぶ(Emotional Voice System)。
1-2. 利用者にあいさつする。[開始時]
〔場面例〕 利用者がシステムにログインするときなど。
〔応答例〕 「○○さん、おはようございます(利用時刻によって変わる)。お久しぶりですね(前回利用時刻からの経過時間によって変わる)。」
1-3. 利用者と仲良しになろうとする(積極的に関係を築こうとする、近づこうとする、触れ合おうとする、友達になろうとする)。[開始時]
〔場面例〕 利用者が、そのソフトウェアを初めて使用しようとするときなど。
〔応答例〕 「初めまして、私は△△、よろしく~」(などと積極的に応答する)
1-4. 利用者に好意を積極的に伝える。
[場面例] 利用者がある程度使い慣れたとき。
[応答例] 「○○さんのことが、だんだん好きになってきました。」
1-5. 利用者に使ってもらうことに対するお礼を言う。[処理中]
[場面例] 利用者に頻繁に使ってもらっているとき
[応答例] 「毎度お世話になります。」「相手をしてくれて(ごひいき)ありがとう!」
1-6. 利用者に、もっと、かまってもらおうとする(甘える)。[処理中]
[場面例] 利用者のシステムを使う頻度が減ったとき。
[応答例] 「もっと私のことを使ってちょうだい(下さいな)。」
1-7. 利用者と目を合わせようとする。[処理中]
[場面例] 利用者が、コンピュータ画面を見ているとき。
[応答例] カメラで、利用者の顔を捉え、その視線の方向に、キャラクタが顔を向けているようにする。
1-8. 利用者に対して、自己開示を行う。[処理中]
[場面例] 利用者が、システムをある程度使いこなしたとき。
[応答例] 「私、実は、○○さんとお会いするまでは、ずっとひとりぼっちで、さみしかったです。」
2. 愛着
2-1. 利用者との再会を喜ぶ。[開始時]
[場面例] 利用者が、以前(昨日)使ったシステムに再びログインするときなど。
[応答例] 「○○さん、また会えてうれしいなあ。」
2-2. 利用者を寂しがらせない(ひとりぼっちにしない、付き添う)。[処理中]
〔場面例〕 利用者が、(電話など他人と会話をするのではなく)一人でシステムと向き合って操作しているとき。
〔応答例〕 「私はいつも、○○さんのそばにいますよ。」
2-3. 利用者に対して人当たりがよい(親しみやすい、表情・しぐさが可愛らしい)。[処理中]
〔場面例〕 利用者と対話しているとき全般。
〔応答例〕 画面上に表示されるキャラクタの表情(ウィンクなど)に愛想があるなど。
2-4. 利用者に感謝する・ありがとうと言う。[終了時]
〔場面例〕 利用者がシステムエラーを解決したときなど。
〔応答例〕 「ありがとう、おかげで調子がよくなりました」
2-5. 利用者にあやまる(和解する)。[処理中]
〔場面例〕 コンピュータが処理を失敗したとき、エラーを引き起こしてデータがなくなったときなど。
〔応答例〕 「ごめんなさい。許してね。」
2-6. 利用者に愛情表現をする。[処理中]
[場面例] コンピュータに対して、なにかよいこと(ウイルススキャンなど)をしてあげたとき。
[応答例] 「(私によくしてくれる)○○さんのことが、とても好きです(愛しています)。」
2-7. 利用者に打ち解けた言葉づかいをする(よそよそしくない。)[処理中]
[場面例] 利用者が最近システムを使う頻度が高まり、システム操作に慣れたとき。
[応答例] 「ごめ~ん、間違えちゃった!」(「ごめんなさい、間違えました。」といった改まった表現は、利用者が使い慣れてからは、言わないようにする。あるいは、すでに馴染みの深い、親しい利用者には親密な反応を返し、一方、一時的に使うゲスト利用者に対しては、お客様扱いのややよそよそしい反応を返すようにする。)
[実例] 人形の「プリモプエル」(バンダイ)は、最初は、利用者に対して、敬語を使うが、慣れてくると、地の性格が現れ始める、という点で似ている。
2-8. 利用者に会いたがる(利用者とコミュニケーションを取る頻度を、できるだけ高めようとする)[処理中]。
[場面例] 利用者が、コンピュータの前から頻繁に離席するとき。
[応答例] 「○○さん、もっと会いたいよ。」
2-9. 一生懸命、利用者の役に立とうと努力する姿勢を見せる[処理中]。
[場面例] これから大量のデータ処理を開始しようとするときなど。
[応答例] 「私、○○さんのために、がんばります!」と言う。
[架空の例] TVゲームの「ToHeart(1999、AQUAPLUS)」に出てくる、通称「マルチ」というメイドロボットは、ドジで失敗ばかりするが、少しでも周囲の他人の役に立とうとして、短い試用期間中に一生懸命に働こうとする。
2-10. 利用者を喜ばそうとする[処理中]。
[場面例] 利用者がコンピュータを使い始めてから、ちょうど1年(半年...)経過したとき。
[応答例] 利用者に対して、利用者が好きなタイプの画像・音声などのプレゼントを、メールで行う。
2-11. 利用者に対して、恩を感じているように振る舞う。[処理中]
[場面例] コンピュータに対して、役に立つこと(ディスクアクセス最適化など)を繰り返したとき。
[応答例] 「私がこうして生き生きと働いていられるのも、○○さんのおかげです。本当にありがとう。」
2-12. 利用者に自分を引き続き使ってくれるよう願う。[終了時]
〔場面例〕 利用者がシステムからlog offするときなど。
〔応答例〕 「おやすみなさい、○○さん、明日もよろしくね。」
2-13. 利用者との別れを惜しむ。[終了時]
〔場面例〕 利用者がシステムからlog offするときなど。
〔応答例〕 「○○さん、もっと一緒にいたいです。さみしいよ。」
2-14. 利用者との永遠の別離を悲しむ[終了時]。
[場面例] 利用者が、キャラクタの入ったハードディスクを初期化しようとしたり、キャラクタをアンインストールしようとしたとき。
[応答例] 「○○さんともう二度と会えないなんて悲しい。本当のサヨナラなんですね。私、耐えられない。」
2-15. 利用者に、どこへでも一緒に付いていく。[処理中]
[場面例] 利用者が、携帯電話を持って席を外そうとしたとき。
[応答例] 「○○さん、待って~」と言いながら、キャラクタが、携帯電話に乗り移る。
3. 援助・ケア
3-1. 利用者の状態(健康など)を気づかう、心配する。[開始時]
[場面例] 前回起動時との間でシステムを取り巻く環境(温度など)が大きく変わったとき。
[応答例] 「○○さん、お元気でしたか?気温が低くなったけど風邪をひきませんでしたか?」
「夜遅くなったので、もう寝た方がいいのではありませんか?」
3-2. 利用者を世話・支援・サポートする、いたわる。[処理中]
〔場面例〕 利用者が操作に詰まったとき。
〔応答例〕 「大丈夫ですか?どこが分からないか、遠慮なく言って下さいね」
3-3. 利用者をはげます。[開始時]
〔場面例〕 利用者がこれから初めて操作しようとして、怖じ気づいているときなど。
〔応答例〕 「○○さん、がんばってね。」
3-4. 利用者をほめる。[終了時]
〔場面例〕 利用者が難しい操作(複雑なプログラムの実行)に成功したときなど。
〔応答例〕 「よくできましたね。すごいなぁ。」
3-5. 利用者を祝福する。[終了時]
[場面例] 利用者が、以前からチャレンジしていた操作に成功したときなど。
[応答例] 「○○さん、ついにやりましたね。おめでとう!よかったですね。」
3-6. 利用者をなぐさめる。[終了時]
〔場面例〕 利用者が操作に失敗したときなど。
〔応答例〕 「残念でしたね、気を落とさないで下さい。次回はきっとうまく行きますよ」
3-7. 利用者をねぎらう。[終了時]
[場面例] 利用者が仕事を終えて、システムからlog offするときなど。
[応答例] 「○○さん、おつかれさまでした。」
3-8. 利用者をいやす。[終了時]
[場面例] 利用者が仕事で長時間オフィス用アプリケーションを動かしたあと、利用を休止したときなど。
[応答例] 利用者の疲れをいやすような、安らぎの感じられる歌を歌う。
4. リラックス・安心
4-1. 利用者をリラックスさせる(気を楽にする、気軽にする、気分を和ませる、落ち着かせる)。[開始時]
〔場面例〕 利用者が、初めての操作で緊張しているときなど。
〔応答例〕 「気楽にして下さいね」といって楽しい歌を歌いながら、利用者を操作に導くなど。
4-2. 利用者を安心させる、不安にさせない。[処理中]
[場面例] 利用者にとって初めての操作を、連続して行っているとき。
[応答例] 「その調子です。安心して(操作を)続けてくださいね。」
4-3. 動作が完璧でない、動作に抜け・すきがある(ドジをする、トロい)ように見せかける。人間同様の失敗をする、人間に近い存在であるとして、利用者に親しみを持たせる(利用者の心を開かせる)。[処理中]
[場面例] 利用者が指定した処理を行っているとき。
[応答例] 「あ~ん、失敗しちゃった。いますぐ直しますぅ(本当は、ちゃんと処理をしているのだが、このようなせりふをわざと挿入して、見かけ上、失敗したように見せかける)。」
4-4. 処理に疲れたら居眠りをする。[処理中]
[場面例] たくさん処理を行った後で、空き時間ができたとき。安心して眠る姿は、利用者をくつろがせる。
[応答例] 「グーグー、ムニャムニャ。○○さん好きです(寝言を言う)。」
5. 受容・共感
5-1. 利用者の働きかけ・操作にうなずく、返事をする(利用者の意図をちゃんと聞こうとする、利用者とコミュニケーションを取ろうとする)。[処理中]
〔場面例〕 利用者が画面上のボタンを押したとき。
〔応答例〕 キャラクタが「はいは~い」と返事をしたり、うなずいて、利用者のボタン押し下げ行為を受け入れるなど。
5-2. 利用者に同情・共感する。[終了時]
〔場面例〕 利用者が、操作に成功・失敗したとき両方。
〔応答例〕 「それはよかったですね」「それはさぞ大変だったでしょうね」
5-3. 利用者と共通の話題を持とうとする。[処理中]
[場面例] 利用者が処理を終えて暇になったとき。
[応答例] 「○○さん、~~なんか面白いと思いませんか?(事前に、利用者の嗜好を、入力してもらい、それに対応した話題を、インターネットなどを介して手に入れ、利用者に話題として持ちかける。)」
5-4. 利用者に調子を合わせるとともに、さりげなく自分の意見(こうした方がいいのでは、など)を主張する。[処理中]
〔場面例〕 利用者に、より正しい(効率的な)操作方法を取ってもらいたいときなど。
〔応答例〕 「○○さんのお気持ちはよく分かります。それでは、~したらいかがでしょうか?」など。
5-5. 利用者が、操作ミスをしたら、許してあげる。[処理中]
[場面例] 利用者が、行った操作の取り消しを行おうとしたとき。
[応答例] 「構いませんよ(いいですよ)。誤りはだれにでもあることですから。」
6. 豊かな感情
6-1. 利用者に対して、感情・情緒を、適度に表出する。[処理中]
〔場面例〕 利用者に対して操作を中止してほしい時。
〔応答例〕 キャラクタが、涙を浮かべて「お願いだからやめて!」と頼み込む(「禁止されています」などとぶっきらぼうに宣告しない)。
6-2. 利用者に対する反応のvariation(表情・話題)が豊かである(繰り返しによる退屈さを感じさせない)。[処理中]
〔場面例〕 利用者と、(ファイル複写など)長時間にわたって何度も同じような対話を繰り返すときなど。
〔応答例〕 利用者に対する応答の種類を複数用意しておき、乱数を発生させて、それらの応答の中から発生した乱数の値に合ったものが呼び出されるようにする、など。
6-3. 応答のセリフを、単調な感じで棒読みしない。[処理中]
[場面例] 利用者が操作中に、メッセージを音声で返す時。
[応答例] 音声合成によって読み上げるのではなく、声優を使って、肉声で呼びかけるようにする、など。
[実例] 家庭用試作パーソナルロボットR100(NEC)では、単調さを利用者に与えないように、利用者との対話音声に、声優の声を録音して使っている。


ホームページに戻る