[説明]植物的思考動物的思考
-農耕民と遊牧・牧畜民との行動様式比較-

2006.01 大塚いわお


1.両者の比較


植物を栽培して主に生活するのが農耕民であり、動物を飼育して主に生活するのが遊牧・牧畜民である。

農耕民は、日本、東アジア、ロシアなどの民族であり、牧畜民は、欧米、アラブ、ユダヤ、モンゴルなどの民族である。

日本人は、稲作をメインとする、農耕民の系譜に属し、一方、欧米人は、ある程度小麦栽培のような農耕もするが、牧草地を家畜を伴って移動して生活するシーンが多い点、より遊牧・牧畜民に近い系譜に属する。

以下の本文では、この両者が対照的な社会的性格を持っていることを説明し、それぞれの民の物の考え方、行動様式を、「植物的思考=農耕民的考え方」「動物的思考=遊牧・牧畜民的考え方」と呼ぶことを提案する。あるいは、「植物的、動物的価値観、フレームワーク、行動様式」等と呼んでもよい。


1.植物的思考と動物的思考の対比

農耕民は、植物を栽培して生きているうちに、その思考、行動様式が、次第に植物の特性に合わせたものになっている。一方、遊牧・牧畜民は、動物、家畜を飼育して生きているうちに、その思考、行動様式が、次第に動物の特性に合わせたものになっている。

この両者の違いを、以下の表にまとめた。

植物的思考(農耕民) 動物的思考(遊牧・牧畜民) 備考
P 場所、地点的側面(Place、Position)
P1 定着、定住重視
根付き、定着すること、不動であること、抜けたり、転じたりしないことを重視する。
一カ所に根付いてそのまま動かずに定着するのを望ましいと考える。
会社組織とかで、一つの会社に入ったら、そのまま動かず、抜けずにずっといるのが望ましいと考える。一つの会社組織での終身雇用を重んじる。転職、転社をする者は、脱落者、根無し草として疎んじられる。
一回根付いたら、そこで一生過ごすしかなく、人生をやり直せない。
移動重視
一カ所に止まったままなのを好まず、あちこち転々と移動するのを自然だと考える。
複数会社組織間を転社、転職することを自然なものと考える。
いつでも、どこからでも、新天地に移動してチャレンジできる、人生をやり直せる。
P2 蓄積重視
一カ所に定住して、財産、物資等のストックがたくさん溜まるのをよしとする。動かないので、ストックを持ち歩く必要がない。
不蓄積重視
物資等をたくさんため込むと、移動に不便なので、最低限必要な財産や道具のみを持ち、その他はなるべく持たない、蓄積しないのをよしとする。
P3 重さ重視
どっしり重くて、少々の風では飛ばない、動かない、抜けない、倒れないのを好む。大地にどっしり根を下ろすのを好む。
軽さ、機動性重視
軽くて、あちこち簡単に飛び回れる、動き回れるのを好む。機動性に富む。
P4 生え抜き重視
同じ一カ所に新芽として芽吹いてから、ずっと生え続けてきた者が本来その場所を占めるべきと考える。途中、抜けそうになるいろいろな苦難を乗り越えて、抜けずに頑張ってきたことを重視する。
会社組織とかで、その組織に新人として入社して、ずっと勤務し続けている者が、その会社組織で主導権を握るべきであり、余所から中途転入してきた者による組織支配を望ましくないとする。生え抜きが社長になるのが一番自然だと考える。
中途転入の許容
ある場所を占めるべき者は、特に、その場に以前からい続けた者でなくとも、最近余所からやってきた者でも一向に構わないと考える。
会社組織とかで、余所から中途転入してきた者による組織支配について特に問題ないと考える。
P5 受動指向
その場一カ所に止まったまま動けないため、環境変動に対して、動いて逃げることができず、受け身一方である。環境変動に対して、一方的に忍耐したり、マゾヒズム的考え方にになる。
能動指向
あちこち動き回ることができるため、環境変動に対して、動いて逃げたり、逆に攻めたりすることができ、能動的である。
P6 今いる場所・分野へのこだわり
今までいたところに止まったまま、動かない(動けない)。
新分野へと自分から進んで動いていくことがない。
新分野への進出
今いるところに止まらず、今まで行ったことのない新分野へとどんどん飛び出していく。
P7 しなやかさ、頑丈さの重視
風雨に当たったときに折れないようにするため、柳のようなしなやかさや、幹の太さ、頑丈さを重んじる。
素早さの重視
襲ってくる外敵から逃げ切るだけの素早さ、機動力を重んじる。
P8 大地、土地、水平指向
大地、下方向を指向する。大地から離れない水平方向を指向する。土地に執着する。
天空、垂直指向
天空のような、大地から離れる上方向、垂直方向を指向する。一つの土地に執着しない。
P9 視野の狭さ
ずっと一カ所に止まって、あちこち動かない、いろいろなところを経験することがないため、物事の体験の視野が狭い。
視野の広さ、グローバルさ
あちこち動いて、いろいろなところを経験するため、物事の体験の視野が広い。グローバルな視野を持っている。
P10 進行方向、目標の不明確さ
ふだん、ずっと一カ所に止まって動かないため、これからどの方向に向かって進めばよいかを決定するのが不得手である。方向音痴である。
進行方向、目標の明確さ
ふだん、いつも移動しているため、これからどちらの方向に向かって進めばよいか、はっきり決定するのが得意である。方向感覚に長けている。
T 時間的側面(Time)
T1 年功重視
年を取るほど、有用な蓄積が多く、大樹になり、立派になると考える。年の回った回数によって、樹木や人などの価値を測ろうとする。年取った者ほど尊敬され、偉いとされる。老人支配が起きやすい。
若さ重視
繁殖能力、移動能力を持っている、ある程度若い個体を重んじる。年取った者は、子供を産めないとか、移動とかで足手まといになるとして、疎んじられる。
T2 年少者の年長者追い越し禁止
年を取った個体が、年を取っていない個体よりも、有用な蓄積があり、常に上位で偉いとする。一定資格(キャリア採用国家公務員とか)の年少者(後輩)が、同じ資格の年長者(先輩)を昇進とかで追い越すことが起きないようにする。
年少者の年長者追い越し容認
年を取った個体が年を取っていない個体より必ずしも有用とは言えないと考える。一定資格の年少者(後輩)が、同じ資格の年長者(先輩)を昇進とかで追い越すことが当たり前である。
T3 定期定型反復
毎年、季節、時計に合わせて、全く同じこと(芽吹き、開花等)を定期的に繰り返す。
農作業(田植えとか)で、全く同じ定型作業を、(苗毎とかで)連続で、何度となく反復して繰り返す。
物の考え方が、型にはまったものとなる。周囲の急激な変化に対応して考えのパターンを変えることができにくい。
不定期不定形不反復
動物(家畜)飼育、放牧は、植物に比べて、扱いの定期性、定型性、反復の度合いが低い。
物の考え方が、型にはまらない、融通の効いたものになる。周囲の急激な変化に対応して、容易に考えのパターンを変えられる。
T4 前例、しきたりの重視
ずっと同じ場所にい続けるため、今まで有効だった価値観、前例、しきたり、伝統が有効であり続け、それらの継続を重視する。新規なアイデアを自分から考案すること、創造性に欠ける。考え方が保守的であり、後進的になりやすい。
独創性の重視
新たな牧草等を求めて、新たな場所へと移動するため、その都度、新たな事態への対処が必要であり、新しい考えを生み出す必要がある。今までなかった考え方を新たに何もない状態から生み出すのを尊ぶ。前例、しきたりに挑戦する。進歩的、先進的な考え方を持つことができる。
T5 長期的思考
一カ所に長期にわたって永続的に止まるため、物の考え方、スパンが長期的になる。
短期的思考
一カ所には短時間のみ止まるため、物の考え方、スパンが短期的になる。
T6 同期へのこだわり
毎年、同じタイミングで一斉に芽吹いたり、花を咲かせたり、植えたりする、同期性を重んじる。
同じタイミングで新人を組織に入らせる。同じタイミングで組織内に芽吹いたり、入ったりした複数の者同士を、格差を付けずに平等に扱おうとする。
同期意識の希薄さ
行動を起こすタイミングがあまり一斉でなく、同期性に余りこだわらない。
E その他(etc)
E1 ウェット、液体的
互いに近接し、一カ所に定着するのを好む。
ドライ、気体的
互いに離れて、動き回るのを好む。
関連ページ
E2 母権制
女性、母性が強い。
大地の母神を信仰する。
父権制
男性、父性が強い。
天の父なる神を信仰する。
関連ページ
E3 動物殺生禁忌
家畜等の動物を殺生するのを嫌う。慣れていない。
動物殺生容認
家畜等の動物を殺生するのに慣れている。平気である。
E4 地域=日本、東アジア(中国、韓国、タイ、インドネシア・・・)、ロシア等 地域=欧米、アラブ、ユダヤ、モンゴル等


(植物的思考を取る)日本人の国民性についてのリンクです。



2.注意すべき点

日本人は、農耕民の系譜に属する訳であるが、このことに関して、従来のいくつかの誤った考え方を修正することを提案したい。


[その1.農耕民族の反対は狩猟民族ではない]

従来、「農耕」民族の日本人と「狩猟」民族(?)の欧米人を対比させる見方が、日本人の特徴を説いた論説の中に多く出てくるが、これは誤りである。正しくは、農耕民族と遊牧・牧畜民族との対比とすべきである。それはなぜか?

そもそも、人間が狩猟を主にして生活していたのは、植物や動物を育てたり、飼ったりするようになる以前の話である。要は、人間の生活の発展、進化段階として、

発展の前段階
↓(原始、後進的)
発展の後段階
↓(先進的)
狩猟民 ┬→ 農耕民(植物栽培)
└→ 遊牧・牧畜民(動物飼育)


となっているのであり、狩猟民と農耕民を対立させて比較するのは、歴史的に前段階と後段階を取り出して対比していることになる。これだと、狩猟民族とされる欧米人は、農耕民族の日本人より、発展段階が前の、遅れた後進的な原始的な状態にあるということになる。これは、文化的に先進国が欧米であり、日本がその後を追っかけるパターンが多いことと明らかに矛盾する。

また、そもそも、日本人も、農耕を始める前は、狩猟民だったのであり、農耕民と狩猟民を対比、対立させて捉えることは、自分のルーツが狩猟民だったことを否定することになる。

日本や東アジアと、欧米との文化対比は、前者が、稲のような植物栽培をよりメインとする農耕民、後者が、前者と比較して羊や牛、馬のような動物を飼育することをよりメインとする遊牧・牧畜民であることの違いによって説明するのが適当である。

なぜならば、発展段階としては、農耕民と遊牧・牧畜民とは、同時並行状態にあり、互いに同時に比較、対比する対象としてより適切であると言えるからである。現に、欧米社会は、動物飼育による肉食、酪農の比重が日本などに比べて高く、その点、より遊牧・牧畜民的と言えるのである。

今後は、日本と欧米の比較に、農耕民族と狩猟民族という誤った対比を行うことを止め、農耕民族と遊牧・牧畜民族の対比を用いるべきである。


[その2.日本人だけが農耕民族なのではない]

何か、従来の日本人の特徴を説いた論説を読んでいると、日本人だけが農耕民族であり、中国、韓国とか日本以外の他の社会は、みな牧畜民族だみたいな書き方をしている事例に頻繁に出会う。

確かに、中国、韓国の人は、日本人に比べて、肉食をする割合が高いかも知れない。だからと言って、彼らが欧米並みの遊牧・牧畜民かと言われれば、首をかしげざるをえないのが実情だろう。

要は、牧畜に従事する人々(民族)の中にも、

(1)農主牧従 確かに牧畜もある程度するが、メインは稲作、畑作の農耕であるタイプ
(2)牧主農従 確かに小麦栽培のような農耕もある程度するが、メインは家畜飼育の牧畜であるタイプ

がいるのであり、確かに後者は牧畜民と言ってよいかも知れないが、前者は、生業に占める比率から言えば農耕民と言うべきである。中国、韓国は、上記の(1)に相当すると考えられる。彼らは、牧畜もある程度するが、主要な点では日本と同じ農耕メインの民族と言えるのではないか。



3.農耕民の取るべき途

現在、欧米主導で提唱されている、地域の垣根を超えたグローバリズムやあちこち移動することを重視、推奨するモバイル指向の考え方は、欧米の動物的な牧畜民の考え方を、国際標準として定着させようとする策略であり、日本、東アジア、ロシアのような農耕民は、それに乗ってはならない。この考え方だと、牧畜民がスタート地点から有利であり、機動性に劣る農耕民は負けてしまう。

日本のような農耕民は、定位置に居を定めて、毎日、その地点について、改良を繰り返し、蓄積していくことで、その場所をより生活しやすい、恵まれたものにしていく。その改良の蓄積によって恵まれるようになった好条件の位置、場所を累々として守り、独占して、牧畜民等の他人を寄せつけないものにするのが、農耕民の取るべき戦略である。

また、現在世界で優勢な欧米の牧畜民らに対抗するためにも、世界中の農耕民同士の連帯の途を探るべきである。彼らは、住む場所は違っていても、互いに同じ植物的思考、価値観を持つ同類だからである。


2006 大塚いわお

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