心理システムと社会システム


人間~生物の生命有機体システムは、大きく分けて、酸素や水分、栄養分などの摂取を行う、生理レベルのシステムと、外部環境の変動に対応した行動や記憶を司る、心理レベルのシステムとからなると考えられる。

この場合、生理レベルの動きは、ホメオスタシスによって、均衡を保っていると言え、従来の構造=機能分析型のシステム理論が当てはまる。生理レベルでも、体温など細かな変動がないわけではないが、その変動は、あくまでも、均衡を破壊しない程度の、一定範囲内の変動である(均衡内変動)。体温など、一定以上高くなったり低くなったりすると、人間~生物は死んでしまう。

しかし、心理レベルにおいては、周囲の環境の変動に適応していく形で、今までにない新しい行動様式を絶えず学習したり、発明・発見したりしていく。例えば、コペルニクスによる地動説の提唱は、従来の天動説で固められた、各人の心理レベルのシステムを、根本的に破壊し、大きく変動させる結果となった、という意味で、「コペルニクス的転回」と呼ばれる。

この根本的変動は、最初は、コペルニクス個人の心理システム内で起きた。コペルニクス個人の心理システムの根本的変動は、コペルニクスの出版物を読んだ各人の心理システムに伝播して、各人の心理システムのあり方を根底から揺るがした。こうした意味で、社会変動は、個々人の心理システムのあり方の変動の合計と捉えることができる。

社会は、心理システム同士の相互作用として捉えられる。

「コペルニクス的転回」のような根本的に価値観がひっくり返る現象は、既存のシステム均衡を廃する形の均衡外変動と言える。こうした意味で、心理レベルのシステムは、生理レベルと異なり、学習、発明・発見を行うことで、絶えず均衡を廃して、新しい水準の環境適応が行われるように、変動を指向している、と言える。したがって、従来の構造=機能分析型のシステム理論を当てはめることはできない。

心理レベルのシステムにとっての「機能」は、学習・発明によって絶えず変化する行動様式が持つところの、刻々と変化する環境に適応していく上で役に立つ働き、と捉えることができる。

現実の社会システムは、個々人の持つ心理システム同士の相互作用で成り立っている。したがって、社会システムの仕組みは、新たな学習・発明・発見などにより変動した心理システム同士の相互作用に伴い、絶え間なく従来の均衡状態を廃して、今までにない新しい段階へと変動している(均衡外変動)、と考えられる。こうした心理~社会システム変動への原動力が、人間~生物に内在するところの、環境適応の水準を向上させようという、圧力(EALIP)である。この圧力(EALIP)が、人間に、学習、発明・発見行動を起こさせるもととなる。

T.Parsonsらの、構造=機能分析がうまく行かなかった(理論的に下火になってしまった)のは、一定範囲内の変動(均衡内変動)しか許さない生理システムに、社会システムの模範を求めてしまったからだと言える。こうした従来の社会学における機能主義の停滞を脱するためには、従来の構造・枠組みを積極的に塗り替える形で、均衡外変動を許す、心理システムに、社会システムの模範を求めるべきである。

従来の社会学では、E.Durkheim以来の社会学主義の影響で、社会変動は、心理システムとは別に、社会システムレベルで独自に起こるものと考えられがちであったが、この見方は、改められなければならない。

例えば、携帯電話の普及は、コミュニケーションの取り方に関する社会の仕組みを確実に変化させた。この点、携帯電話は、社会変動を起こした、と言ってよい。この場合、社会変動は、個々の電話利用者の行動変化の積み重ねであり、個々の利用者の心理システム変動の反映である。個々の電話利用者の心理システムのあり方と無関係に、社会レベルで、独自に、変動が起きている訳ではない。

では、社会変動と同期して起こる、心理システムの変動は、具体的に、どの部分で起きているのであろうか?

個々人の学習や、発明・発見の結果が格納されるのは、可塑性(変動可能性)を持つ、心理システムにおける長期記憶部であろうと思われる。
個々人の心理システムの変動は、おそらく、長期記憶部で、ニューロン同士の配線が、大きく変化することで起きているのではないか?そして、この配線の変動が、社会レベルの変動につながっているのではあるまいか?



(c)1999-2000 大塚いわお

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