◇社会野について


1987-2006 大塚いわお


人間の神経系内部において、社会に関する知識・経験が書き込まれている部分は、「社会野」として捉えることができる。その際、社会野は、さらに、
(1)「コミュニケーション野」他者との相互作用であるコミュニケーションに関する知識・経験を書き込み、思考・展望を行う分野
(2)「社会認識野」自分以外の他者の集合体である部分~全体社会、およびそれらと自分との関係についての知識・経験を書き込み、思考・展望を行う分野
に分けることができる。

(1)コミュニケーション野

社会が発生するのに必要な2つの要件は、1)他者との相互作用が一人の人間単独で行うことは不可能であり、周囲に一人以上の他者の存在が必要という、「他者」、2)他者との相互作用が行われるには、当該他者との間でコミュニケーション(通信)関係の確立が必要である、という「コミュニケーション」である。このうち、社会の創発性主張の根拠となっているのは、2)の「コミュニケーション」である。

実際には、社会の最小単位である、二人以上の他者とのコミュニケーション過程は、コミュニケーションを実行する複数人各々の神経系システムのニューロン回路やりとり活動へと切り分けて考える事ができる。

コミュニケーション関係の確立には、まず、相手にコミュニケーションしたい旨を伝える(相手の反応がない場合は一定回数督促する)。相手がOKを返してきたら、関係が確立したと見なし、相手に伝えたい内容のメッセージ送信を開始する。送信が終了したら、コミュニケーションを終了(中断)する旨伝える。相手に自分への何らかの注意反応を起こさせる目立った行動を取ることで、当方から相手へのコミュニケーションは確立される、と言える。コミュニケーションの確立~メッセージ送信は、両者間で双方向に行われるのが、相手に自分の伝えたい内容がきちんと伝わっているか確認するために望ましい。

いったんコミュニケーションが確立されると、一方の神経系におけるニューロン回路が、身体外へシンボルによるメッセージの形で出力され、それを、他方の神経系が解読して手に入れる、といったことが起こる。その際、他方が一方の出したシンボルを解読可能になるには、予め両者の間で、そのシンボルが何を意味するかについて了解が取れていなければならない。言わば共通の知識が必要なのであるが、それは究極的には、人類の遺伝レベルでの感覚の共通性(リンゴは、原則として人類には共通に赤い色で丸い形として、捉えられる)、すなわち、人類の脳感覚野における生得的なニューロン回路の共通性に由来すると考えられる。

コミュニケーションを個々人の心理過程として、個人単位へと切り分ける作業は、具体的には、人間が他者とのコミュニケーション時にそれぞれ、脳神経系のどの部分が活性化されるかを、脳の活動を測るMRIなどの機器を使って、個人毎に独立して測定し、コミュニケーションのタイプ別(コミュニケーションの開始~終了までの各段階、会話のやりとりの豊富さ、話題の内容、相手への好き嫌いの度合いなど)に分類することで可能なのではないかと考えられる。そうした他者とのコミュニケーションによる相互作用が行われる際には、神経系の特定部分、「コミュニケーション野」とでも言うべきものが活性化すると想定される。すなわち、「コミュニケーション野」とは、個人間に接続コネクタが構築され(てい)る際に限って活性化する部分、他者とのコミュニケーション時に活性化する部分である、と言える。

神経系内部における「社会野」の一種としての「コミュニケーション野」は、個人間を取り結ぶ「接続コネクタ」生成がどのようになされるか解明する上での鍵を握る存在であり、こうした「コミュニケーション野」の存在や働きを確かめる事が、今後の神経心理学のみならず社会学にとっても重要なテーマとなっていくのではないか?
 
(2)社会認識野

社会認識野は、自分以外の他者の集合体としての部分~全体社会、およびそれらの社会と自分との関係についての知識・経験を書き込み、思考・展望を行う、神経系の一部分として捉えられる。この分野は、家族、学校、会社、地域といった、より大きな全体社会の一部分をなす相対的にミクロな部分社会、および、国家・民族や世界といった、よりマクロな全体社会それぞれについて、何が起こっているか、互いの関係はどうなっているかを記録・分析し、どのような方向に進むのが望ましいかを考え、実行に移す作業を行う部分である、と言える。

地縁、血縁やサークル、職場からインターネットに至るまで、様々な種類の社会関係があり、それらについての知識や思考結果が集積したのが、社会認識野であるということができる。

この社会認識野は、社会関係に関する概念が外から刺激として入ってきたときに活性化する部分として捉えることができる。


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