簡単な要約:母性と父性

2003.5-2005.11 大塚いわお


母性と父性の態度面での違いは、以下のような簡単な図で表すことができる。


上記の図では、母性は、相手(子供など)を自分の中に包み込んで保護しよう、守ろうとするのに対して、父性は、相手を自分から分離・独立させた上で、子供がうまく自活していくことができるように、外からフォロー・援助を加えようとする、といった違いがあると考えられる。

母性と父性の違いを一言で言えば、母性は「内部に閉じた」世界=自分の子宮胎内相当の世界に相手(子供)を置こうとする、子供を親に「癒着・依存させる」性であり、一方、父性は「外部へと開かれた」世界に相手(子供)を置こうとする、子供に対して親からの「分離・自立を促す」性である、と言える。

この場合、子供の役を取るのは、実の子供とは限らず、学校なら下級生とか、職場なら部下とか、いろいろバリエーションがある。母性、父性の役回りは、血縁でつながった家庭のみに止まらず、学校、職場等広く存在する。

両者の違いを、以下に簡単な表にまとめたので参照されたい。

母性 父性
1 援助・養育指向 自立促進指向
1-1 サポート・ケア(世話・心配)
子供の身の回りを手取り足取りサポートする。子供のことをあれこれ心配し、助ける。かいがいしく子供の世話を焼く。子供の面倒をよく見る。子供を手厚く看病、介護する。子供にベタベタする。
セルフケア促進
子供が自力で生活できるようになることを促す。子供が自分の面倒を自分で見るように、セルフケア、自立を促進させる。子供を遠くから見守る。
1-2 栄養付与
子供に栄養を与える(母乳等)。食事を与える。
道具・物資付与
子供に、生活に必要な道具、物資を与え、自力で操作、使用できるように教える。
2 受容・安心付与指向 指令・緊張付与指向
2-1 受容・受入
子供のことを「おいで」「いらっしゃい」と温かく迎え入れる。子供が何かいたずら、ミスをしても、「あらあらしょうがないわね」とひとまず受け入れてあげる。
審判、拒絶、指令
子供に「これをしてはいけない」という法令を教える。法をもとに、客観的な診断に基づいて、悪いことをした子供のことを裁き、罰する。「お前は私の子ではない」と拒絶する。容赦しない。ミスをした子供を叱り、「こうするように」と指示、命令を出す。
2-2 くつろぎ
子供を、自分の懐で安心させ、くつろがせる。子供をリラックスさせる。その場に居させる。子供を甘えさせる。「お疲れさま」と労う。
緊張付与
子供を、ピリッとさせる。子供の目を覚ます。子供を甘えたり、油断させない。
3 「内」「閉」指向 「外」「開」指向
3-1 包容・包含(抱擁)
子供を、自分自身の中(子宮胎内)に相当する内部空間に、その全身を包み込む、抱く形で守ろうとする(子宮的思考)。
切開
子供を閉じこめている閉鎖的な内部空間を切り裂き、子供を外部空間に置こうとする。
3-2 閉鎖・排他(内外区別)
自分と子供のみからなる、外部に対して閉鎖的な空間を作る。自分たちのいる空間内部=「母の胎内」と外部とを峻別し、外部からのアクセスをシャットアウトする。
開放(内外非区別)
子供を、外界に向かって開かれた、外部へのアクセスが可能な空間に置こうとする。子供に、外界への扉を開く。自分たちのいる空間と外部とは直接つながっていると考え、区別をしない。
3-3 内部隠蔽・保護
子供を自分の中に包含した状態のまま保護し、引きこもって外出したがらない子供がそのまま中にいるのを許容する。内情を外部に漏らさず秘密にしようとする。
外部露出・公開
外に不安で出たがらない子供を、強制的に連れ出して、外の空気に触れさせる。外部環境に直接さらさせよう、公開しようとする。
3-4 気候一定(温室)・甘さ
自分の胎内相当の、温度一定で、体温程度の生温かい、ちょうど心地よい「ぬるま湯」的な温度の「甘えた」環境=「温室」に子供を置こうとする。
気候変動、厳しさ
外部気候の変動や風雨に直接さらされ、酷暑、酷寒となることもある、(甘えのない)「厳しい」環境に子供を置こうとする。
3-5 安全域内滞留
今いる安全の確保された(内部)領域から子供を外に出さないようにしようとする。子供を危ない目に合わせないように気を付ける。
冒険・探検
外部の、(危険も含めて)何が待ち構えているか分からない未知の領域へと、子供を冒険・探検に(知的なものも含めて)連れて行こうとする。
4 接続・癒着指向 切断・分離指向
4-1 接続
子供と互いに密接につながろうとする。
切断
子供を自分から切り離して、一定の距離を置こうとする。子供と母親との間に入って、両者の関係を切断する。
4-2 癒着・一体融合
子供と一体化する。子供と互いにくっつき癒着するのを好み、相互の一体・融合感を重んじる。
分離
子供に対して、互いに離れた、別々の存在であろうとする。子供に、自分独自の世界を大切にするように教える。
4-3 依存させ
子供をいつまでも自分になつかせ、依存させたままでいようとする。
突き放し
子供を、自分から突き放し、自分から離れて、自分一人で自活できるようにする。自分の身は自分で守る態度を、子供に身につけさせる。
5 同一指向 差異指向
5-1 平等
子供の間に格差ができないように、平等に扱おうとする。
差別化
子供別に、彼らが得意・不得意とする分野を判別・設定し、分野の違いに応じて、各子供に対する扱いに差を付ける。
5-2 非競争・画一
子供の間で競争をさせず、仲良く横並びさせる(能力を画一化する)ことで、子供同士の心理的な一体感、同一性を確保する。
自由競争・個性化
子供同士で自由に競争をさせ、子供間での能力格差の発生を容認する。子供同士が、互いに異なる個性、能力を持つことを認め合うように誘導する。


一人の人は、母性だけ、父性だけ持っているのではなく、母性、父性を両方持っており、その割合が、女性では母性が多く、男性では父性が多くなると考えられる。

また、人が母性的、父性的というのは、性別、年齢、親子にも必ずしも関係しない。つまり、女性(男性)だからといって母性的(父性的)とは限らず、年齢が高い(低い)から、親(子)だから母性・父性的(子供的)とも言えない。

例えば、日本のようなウェットな雰囲気の会社や政党の派閥では、男性の上司、親分が、部下、手下に対して、一体感を重んじ、包容力のある母性的な態度を取ることが多い。むろん、女性社員が母性的なリーダーとして、職場を引っ張っていく、性別に合致したタイプも多く見られると考えられる(天野こずえ原作アニメ「ARIA」のアリシアみたいなタイプである)。

また、中高生の女の子(本来子供の役を取るはずの、比較的低年齢の人)が、いつまで経っても娘のような感じで依存的で頼りない母親に代わって、母性的な包容力で家族を引っ張っていくケースもあると思われる。特に、面倒を見る必要のある年下の弟妹のいる長姉が、母性的な態度を強く取ることが多いと考えられる(例えば、桜場コハルのコミック「みなみけ」の長女、南春香みたいなタイプである)。

あるいは、日本のように、母性が優勢で、子供と父親の関わりが少なく、父性が不足している社会の場合、母性を担う母親が、父性を実行しない(できない)父親に代わって、ある程度父性の代行をする(子供を外界へと連れ出す、子供を叱るなど)役割をするという面もある。


[参考文献]
河合隼雄、母性社会日本の病理、1976、中央公論社
松本滋、父性的宗教・母性的宗教、1987、東京大学出版会


2004-2005 大塚いわお

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