人間の命の重さの不平等性についての検討
-性別、年齢、地位の視点から-
2004.5-10 大塚いわお
1.はじめに
従来、人権擁護の観点から、「全ての人の命の重さは平等であり、差別があってはならない」とされてきた。
しかし、それは建前だけで、実際には、人々の属性(年齢、性別、地位、人種・・・)によって、命の重さの点でかなり不平等があるのではないかと考えられる。
本文は、この命の重さに関する不平等を、主に性別などの観点から、一部明らかにしようとすることを目的としている。
2.検証すべき仮説
人々の命の重さを決定する要因としては、例えば、以下のものが考えられる。
| 命の重さを決定する要因 | 要因に対応する指標 | 指標と要因との関連 | 命の重さの比較(仮説) | |
| (1) | 将来性 | 年齢 | 年齢が低い(若い)ほど、将来性がある。 | 将来性がある若者の方が、年寄りよりも命が重い。 |
| (2) | 生物学的貴重性 | 性別 | 精子に比べて数が少ない卵子の担い手である女性のほうが、精子の担い手である男性よりも貴重である。 参考:生物学的貴重性と性差のページ |
貴重な女性の方が、そうでない男性よりも命が重い。 |
| (3) | 高地位性 | 役職 | ついている役職が主要であるほど、社会的・組織的に地位が高く、重要である。 | 高い役職についている方が、低い役職の者よりも命が重い。 |
[1]こうした要因をより多く身に付けている者ほど、命が重い(より優先して命を助けてもらえる)存在であると考えられ、そのことを確認する必要がある。
例えば、高校生か大人か、首相か一般人かの違いによって、命の重さの要因がどう違ってくるかは、以下の表のようにまとめられる。
| 将来性 | 生物学的貴重性 | 高地位性 | |
| 女子高校生 | ○ | ○ | - |
| 男子高校生 | ○ | - | - |
| 女性首相 | - | ○ | ○ |
| 男性首相 | - | - | ○ |
| 女性事務員 | - | ○ | - |
| 男性事務員 | - | - | - |
例えば、上記の表において、
女子高校生は、将来性と生物学的貴重性を兼ね備えている。
女性首相は、生物学的貴重性と高地位性を兼ね備えている。
男子高校生は、将来性のみ、男性首相は、高地位性のみを持っている。
将来性も高い地位もなく、貴重性のみを持つのは、普通の(並の)大人の女性(役職なしの中年女性事務員など)である。
何も持ち合わせていないのが、普通の(並の)大人の男性(役職なしの中年男性工員など)である。
なお、首相のような高い地位につくのは、年齢をある程度重ねた者であることが多い。
高校生は、将来性はあるが、社会的地位はあくまで見習い的なものに止まり、高くない。
[2]各要因が実際に命の重みを決定づける働きを持っているかどうかを確かめる必要がある。例えば、生物学的貴重性の面で言えば、貴重な女性の方が、そうでない男性よりも命を助けてもらいやすい、といった仮説が成り立つ。
[3]命の重さを決定づける要因間の強弱関係にも考慮する必要がある。
例えば、地位は低いが将来性のある高校生の方が、地位は高いが将来性のない高齢の首相よりも、より命に重みがある、といった仮説が成り立つ。
今回は、上記のうち、主に、
| ・将来性(年齢)の違いが、実際に生命の重みの違いをもたらしているかどうか ・生物学的貴重性(性別)の違いが、実際に生命の重みの違いをもたらしているかどうか ・高地位性(役職)の違いが、実際に生命の重みの違いをもたらしているかどうか ・将来性(年齢)、貴重性(性別)、高地位性(役職)のどれが、生命の重み付けに対して、より影響力があるか |
を確認する目的で、調査を行う。
具体的には、男子高校生、女子高校生、男性首相、女性首相、男性事務員、女性事務員の6つのタイプについて、互いに総当たり形式で命の重さを比較してもらい、順位付けを行うこととする。
3.調査手順
上記の調査項目について、webを使用したアンケート調査を行った。方法は、webサイト上で男性度・女性度を測定する心理テストを試そうと集まってくるインターネット利用者に対して、具体的な説明を行うページに行く前に、関所の形で、「まずこのアンケートに回答して下さい」と回答を課す形で行った。
質問文や、回答項目については、本文末の(付録)を参照されたい。
4.調査結果
今回の調査結果データ(回答収集時期、回答者人数、回答者属性、回答結果)については、本文末の(付録)を参照されたい。
今回の結果より、
(1)人々による生命救助の優先順位は、
| [←救助優先]女子高校生>男子高校生=女性首相=女性事務員>男性首相>=男性事務員[→救助非優先] |
であることが分かった。
男性首相(高地位性)と女子高生(将来性+生物学的貴重性)を比較した場合、より優先して助けられるのは、女子高生の方である。人々の間では、日本社会全体に対する重責を担っている小泉首相(2004年現在)よりも、そこいら辺にいる普通の女子高生(コギャル)1人の生命の方がより重いと感じられている。生命の重みという点では、将来性と生物学的貴重性を兼ね備えている女子高生は、今回比較した中で最強の存在である。
(2)将来性との関連では、
| [←命が重い]若年(高校生)(将来性あり)>中年(将来性なし)[→命が軽い] |
であることが分かった。より将来性のある若年高校生の方が、中年の人よりも、より助けられやすく、命が重いと感じられていることが裏付けられた。
(3)生物学的貴重性との関連では、
| [←命が重い]女性(貴重)>男性(非貴重)[→命が軽い] |
であることが分かった。より貴重な女性(卵子の担い手)の方が、男性(精子の担い手)よりも、より助けられやすく、命が重いと感じられていることが裏付けられた。
(4)高地位性との関連では、
| [←命が重い]首相(高地位)(>)=事務員(低地位)[→命が軽い] |
であることが分かった。
具体的には、男性首相は、男性事務員よりも優先して助けられる度合いが高めであるが、一方、女性首相は、女性事務員に比べてより優先して助けられる度合いが変わらないことが分かった。
このことから、より地位の高い役職についている首相が、低い地位の事務員より、命が重いと感じられているとは、場合によっては必ずしも言えないことが分かった。
(5)命の重さを決める要因同士の比較では、
| [←命が重い]将来性(高校生)(>)=生物学的貴重性(女性)>高地位性(首相)[→命が軽い] (詳細) [←命が重い]将来性only(男子高校生)(>)=生物学的貴重性only(中年女性事務員) [→命が軽い] [←命が重い]生物学的貴重性only(中年女性事務員) >高地位性only(中年男性首相)[→命が軽い] [←命が重い]将来性only(男子高校生)>高地位性only(中年男性首相) [→命が軽い] |
であることが分かった。
このうち、将来性onlyの男子高校生は、貴重性onlyの中年女性事務員より、ある程度命が重めであるという結果が出たが、その差は、有意水準0.01には届かなかった。一方、男子高校生は、高地位性onlyの中年男性首相よりも、有意に助けられやすく、命が重いという結果になった。
また、貴重性onlyの中年女性事務員は、高地位性onlyの中年男性首相よりも、有意に助けられやすく、命が重いという結果になった。
5.まとめ
従来、人権上の配慮から平等であるとされてきた、人間の命の重さが、実は条件によって格差があることを示した。具体的には、web質問紙調査によって、(1)若者は中年よりも命が重い(将来性の次元)、(2)女性は男性よりも命が重い(生物学的貴重性の次元)、(3)社会的地位(役職)は、必ずしも命の重さに関係しない、(4)命の重さを決めるには、将来性と(それにやや遅れて)生物学的貴重性が重要で、社会的地位(役職)の高さは上記2つに比べてあまり問題にならない、といった結果を明らかにした。
(付録) 『web調査 人命優先救助順位について』
[質問文]
あなたは冬の冷たい川の中で二人の人が同時におぼれているのを発見しました。都合により、そのうちの一人しか救助できません。あなたはどちらを優先して助けますか?以下の、「1」から始まる、左右の人物を表す単語の対を読んで、「より助けたい」と思う人の側のボタンにチェックを入れて下さい。
[↓回答結果 1回目]
[回答日時] 2004年05月06日~07日
[回答数] 201
[回答者属性]
男 47.264%
女 52.736%
10代 42.289%
20代 46.766%
30代 6.965%
40代 1.990%
50代 0.995%
60代 0.000%
70代 0.995%
[回答比率]
| 〔1.男性-女性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 | 助けたい | どちらで もない |
助けたい | 項目内容 | -Z得点- | 有意水準 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 女子高校生 [将来性][貴重性] | 75.622 | 13.930 | 10.448 | 男性首相 [高地位性] | 9.960 | 0.01 | 将来性+貴重性>高地位性 |
| 3 | 女性首相 [貴重性][高地位性] | 39.303 | 18.408 | 42.289 | 男子高校生 [将来性] | 0.469 | x.xx | 貴重性+高地位性=将来性 |
| 4 | 女子高校生 [将来性][貴重性] | 67.164 | 21.393 | 11.443 | 男子高校生 [将来性] | 8.910 | 0.01 | 貴重>非貴重 |
| 5 | 女性首相 [貴重性][高地位性] | 59.701 | 26.866 | 13.433 | 男性首相 [高地位性] | 7.671 | 0.01 | 貴重>非貴重 |
| 〔2.男性-男性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 | 助けたい | どちらで もない | 助けたい | 項目内容 | -Z得点- | 有意水準 | |
| 2 | 男子高校生 [将来性] | 58.706 | 14.428 | 26.866 | 男性首相 [高地位性] | 4.880 | 0.01 | 将来性>高地位性 |
| 〔3.女性-女性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 | 助けたい | どちらで もない | 助けたい | 項目内容 | -Z得点- | 有意水準 | |
| 6 | 女子高校生 [将来性][貴重性] | 65.672 | 15.920 | 18.408 | 女性首相 [貴重性][高地位性] | 7.308 | 0.01 | 将来性>高地位性 |
[回答日時]
2004年10月27日~28日
[回答数] 212
[回答者属性]
男 41.509%
女 58.491%
10代 50.943%
20代 40.566%
30代 5.660%
40代 1.415%
50代 0.472%
60代 0.472%
70代 0.472%
[回答比率]
| 〔1.男性-女性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 (優先) | -助けたい- | どちらで もない | -助けたい- | 項目内容 (非優先) | -Z得点- | 有意 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 中年女性事務員 [貴重性] | 54.245 | 22.642 | 23.113 | 中年男性首相 [高地位性] | 5.154 | 0.01 | 貴重性>高地位性 |
| 2 | 中年女性首相 [貴重性][高地位性] | 58.491 | 27.358 | 14.151 | 中年男性事務員 [なし] | 7.575 | 0.01 | 貴重性+高地位性>なし |
| 5 | 中年女性事務員 [貴重性] | 64.151 | 28.302 | 7.547 | 中年男性事務員 [なし] | 9.733 | 0.01 | 貴重性>なし |
| 8 | 女子高校生 [将来性][貴重性] | 80.189 | 12.264 | 7.547 | 中年男性事務員 [なし] | 11.292 | 0.01 | 将来性+貴重性>なし |
| 9 | 男子高校生 [将来性] | 47.642 | 16.509 | 35.849 | 中年女性事務員 [貴重性] | 1.879 | 0.05 | 将来性(>)=貴重性 |
| 〔2.男性-男性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 (優先) | -助けたい- | どちらで もない | -助けたい- | 項目内容 (非優先) | -Z得点- | 有意 | |
| 3 | 中年男性首相 [高地位性] | 42.925 | 30.189 | 26.887 | 中年男性事務員 [なし] | 2.795 | 0.01 | 高地位性>なし |
| 7 | 男子高校生 [将来性] | 58.962 | 18.396 | 22.642 | 中年男性事務員 [なし] | 5.854 | 0.01 | 将来性>なし |
| 〔3.女性-女性〕 | ||||||||
| 番号 | 項目内容 (優先) | -助けたい- | どちらで もない | -助けたい- | 項目内容 (非優先) | -Z得点- | 有意 | |
| 4 | 中年女性首相 [貴重性][高地位性] | 34.906 | 27.358 | 37.736 | 中年女性事務員 [貴重性] | 0.483 | x.xx | 高地位性=なし |
| 6 | 女子高校生 [将来性][貴重性] | 69.340 | 14.151 | 16.509 | 中年女性事務員 [貴重性] | 8.302 | 0.01 | 将来性>なし |
注)有意水準欄の「-.--」表示は、仮説で優先と仮定した項目(左側)で、実際のアンケートにおいて、周囲の人々が取るとされた割合が50%を超えたが、有意水準0.10には達しなかったもの
「x.xx」表示は、仮説で優先と仮定した項目(左側)で、実際のアンケートにおいて、周囲の人々が取るとされた割合が50%に達しなかったもの
(c)2004 大塚いわお
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